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📅 2026.06.09 | RYU NAKAZAWA
🎤 講演

気合いより段取り|視覚障害B2のIRONMAN完走法、段取り型アスリートの設計図

⏱ 約10分で読めます(6,215字)
ガイドと並走するパラトライアスリート中澤隆

気合いは、最初の1時間しか持ちません。でも、僕は226kmを15時間以上かけて完走します。押し切るのは気合いではなく、ウエットスーツの装着順まで毎回同じにする「段取り」です。

もしあなたが、何かに挑戦したいけれど「自分には気合いが足りない」と感じているなら——。

もしあなたが、講演や研修で「"挑戦"をテーマにしたいけど、根性論にはしたくない」と思っているなら——。

もしあなたが、毎日の小さな積み重ねを「どう設計したらいいか分からない」と悩んでいるなら——。

この記事は、手紙のつもりで、あなたに宛てて書きました。

こんにちは。視覚障害B2クラスのパラトライアスリート・中澤 隆(なかざわ りゅう)です。盲導犬シュクレと一緒に、IRONMAN(226km)のサブ11時間挑戦を続けています。今日は、僕がIRONMANを完走するために実践している「気合いより段取り」の哲学を、僕自身の一次情報だけでお伝えします。これは、僕がレースを走るための方法であると同時に、見えない毎日を生きるための「設計図」そのものです。

📖 この記事の目次
  1. 「気合い」で226kmは完走できない
  2. 視覚障害B2の僕にとって、段取りは「生きる技術」
  3. 中澤式・段取りの公式
  4. IRONMAN完走の段取り、3つの種目
  5. 朝の段取り——練習を続けるための設計
  6. 「めんどくさい」と戦う段取り
  7. 段取りは、見えない人だけのものじゃない
  8. あなたの「気合い」を「段取り」に変える
  9. 設計図は、誰でも、今日から描ける

「気合い」で226kmは完走できない

正直に書きます。気合いだけで、IRONMANは完走できません

IRONMANは、スイム3.8km+バイク180km+ラン42.195km=226kmを、制限時間内で続けて走りきる競技です。僕の場合、完走には15時間以上かかります。

この長さ、想像できますか。朝のまだ暗いうちにスイムのスタートラインに立って、ゴールするころにはもう日が暮れている。15時間以上、自分の体を動かし続けるんです。

気合いは、最初の1時間しか持ちません。15時間は、もちません。スイムを終えてバイクにまたがるころには、「絶対やり切るぞ」という燃料は、もう空っぽになっています。気持ちで押し切ろうとした人ほど、中盤でガス欠になる。これは、僕が自分の体で何度も味わってきた現実です。

では、どうやって僕は完走しているのか。答えは、一つです。

気合いで動くのではなく、段取りで動く。

この記事は、その「段取り」を、設計図として、できるだけ具体的にお見せするものです。レース本番の段取り、毎朝の段取り、そして「めんどくさい」と戦う段取りまで。全部、僕が実際にやっていることです。


視覚障害B2の僕にとって、段取りは「生きる技術」

視覚障害B2の僕にとって、段取りは「選択肢」ではありません。必需品です。

見えていないんだから、行き当たりばったりでは動けません。今日の朝、何を食べるか。誰に会うか。どの道を歩くか。どこに何を置いたか。すべて事前に段取りしておかないと、僕は一歩も動けないんです。

たとえば、外出する前の朝。僕は頭の中で、玄関を出てから目的地に着くまでの道のりを、何度もなぞります。「玄関を出て右、最初の角を左、その先に段差が一つ」。この頭の中の地図がないと、僕の足は前に出ません。見える人なら、歩きながら目で確認すればいいことを、僕は出る前にぜんぶ済ませておく必要がある。

「気合いで何とかする」という選択肢は、僕にはありません。段取りでしか、僕は前に進めないんです。

そして、この「段取りでしか進めない」という制約が、結果として、僕の段取り力を磨いてくれました。緑内障で視力を失っていく中で、僕は嫌でも、暮らしのすべてを段取りで組み直すことになりました。最初は不便で、悔しくて、情けなかった。でも今では、その段取り力こそが、僕の一番の武器になっています。

視覚障害があったからこそ、僕は「気合いより段取り」の哲学を、机の上の理屈ではなく、毎日の暮らしの中で身につけられたんです。これは、ピンチがそのまま力になった、僕なりの一つの答えです。


中澤式・段取りの公式

目標 → 期日 → 行動回数

気合いではなく「操作」する

僕の段取りは、とてもシンプルです。たった3ステップしかありません。

  1. 目標を決める(例:IRONMANを完走する)
  2. 期日を決める(例:レース当日)
  3. そこに向かって必要な行動回数を決める(例:週に3回スイム)

これだけです。あとは、毎日「気合い」じゃなく「操作」で動く。

ここが大事なところなので、もう少し説明させてください。多くの人は、目標を「タイム」や「結果」で立てます。でも僕は、目標から逆算した「行動の回数」を、毎日のものさしにしています。

なぜか。僕はアスリートで、準備をしっかりしたいタイプの人間です。だから「サブ11時間」みたいな結果を毎日見つめていると、まだ届いていない自分が不安になって、かえって動けなくなる。でも、「今週スイムを3回やったか」という行動の回数なら、自分で確実にコントロールできます。結果は天気や体調に左右されるけれど、行動の回数は、自分の意思だけで積み上げられる。だから僕は、毎日は行動の回数を見て、結果は数ヶ月に一度だけ振り返るようにしています。

具体的には、こんな置き換えです。

「Instagramを続ける勇気」じゃなく「週◯本、◯曜◯時に投稿予約」。
「営業の連絡を送る勇気」じゃなく「今週3通送る」。
「練習する気合い」じゃなく「週3回スイム、決まった曜日に」。

こうやって、自分を「操作」する。勇気や気合いは、講演で人に伝える「商品」として使えばいい。自分が日々動くときは、気合いじゃなく、機械を操作するように淡々とやる。それで十分なんです。気合いを入れる、という行為そのものが、実は心の体力を削っている。だから僕は、その体力を、本番のためにとっておきます。


IRONMAN完走の段取り、3つの種目

では、IRONMANの3種目を、僕が実際にどう段取りしているか、具体的にお見せします。ここが、この設計図のいちばんの中心です。

① スイム3.8km

視覚障害B2の僕は、スイムでガイドとロープで繋がって泳ぎます。海の中で、隣にガイドがいて、ロープの引っ張りで「左に曲がる」「右に曲がる」「ペースを上げる」を伝えてくれる。海の中では僕の目はまったく使えないので、このロープ一本が、僕の方向感覚のすべてです。

だからこそ、本番前の段取りが、命綱になります。段取りのポイントは——

本番でいきなり考えることは、一つもありません。全部、段取りで決まっている。波が荒れて気持ちが乱れても、体が決めごとに沿って動いてくれる。これが、見えない僕が海を渡るための設計です。

② バイク180km

バイクは、二人乗りのタンデム自転車です。前にガイドが乗って操縦と先導、後ろに僕が乗って一緒に漕ぐ。二人分の脚力で、180kmを走り抜けます。僕は前のガイドの背中越しに伝わる呼吸とリズムで、ペースを感じ取っています。

段取りのポイントは——

180kmの間、僕は「次の補給は何分後」「次の坂はこのあたり」を、頭の中の地図で確認しながら漕ぎます。時計の数字が見えなくても、決めておいた段取りがあれば、体は迷いません。気合いで漕ぐのではない。段取りで漕ぐ。これが、長い長い180kmを乗り切るための僕の設計です。

③ ラン42.195km

ランは、ガイドとロープで横並びになって走ります。お互いの手元をロープで結んで、同じペースで前へ進む。見えない42.195kmを、声とロープで一つずつ進んでいきます。

段取りのポイントは——

42.195km、僕は気合いだけで走っているのではありません。「次のチェックポイントまで」「次の給水所まで」を、段取りでひとつずつクリアしていく。フルマラソンの距離を「42km」と丸ごと見たら、足がすくみます。でも「次の給水所まで」なら、進める。大きな距離を、小さく刻む。これが、見えない僕がゴールまでたどり着くための設計です。


朝の段取り——練習を続けるための設計

IRONMANを完走するには、本番だけじゃなく、毎日の練習が要ります。そして実は、本番の段取りよりも、こちらのほうがずっと難しい。なぜなら、毎日のことだからです。

僕は、朝4時30分から6時00分の間に起きるのを毎日のルーティーンにしています。でも、これは「気合いで起きている」のではありません。起きて動き出すまでの段取りを、前の晩に設計しているんです。

朝、目覚ましが鳴った瞬間、僕は「やるか、やらないか」を考えません。体が、昨日決めた段取りに沿って、勝手に動き出すだけです。「やるかやらないか」を朝の自分に判断させると、必ず「今日はやめておこう」に負けます。だから、その判断を、前の晩のうちに済ませておく。朝の自分には、考える余地を残さない。これが、「気合いより段取り」の、毎日の実装です。


「めんどくさい」と戦う段取り

正直に書きます。毎朝、めんどくさいです。

早朝の起床は、楽じゃありません。冬は寒い。夏は眠い。「今日は休もうかな」が、毎日のように頭をよぎります。僕だって、特別に意志が強いわけではないんです。

でも、ここでも気合いには頼りません。「めんどくさい」を超えるのも、また段取りです。僕がやっているのは、こんなことです。

ポイントは、ハードルを思い切り下げることです。「今日も20km走るぞ」だと、めんどくさいに負けます。でも「とりあえず靴下だけ履こう」なら、できる。そして不思議なもので、靴下を履いて玄関まで行くと、たいていそのまま外に出ていけるんです。動き出しさえすれば、あとは流れが運んでくれる。いちばん重いのは、最初の一歩。だから僕は、その最初の一歩を、これ以上ないくらい軽くしておきます。

めんどくさいと思うときは、まず1ミリの行動。

これは、僕の合言葉です。気合いを入れる前に、まず「1ミリ」だけ動く。動いたら、もう0は超えている。0と1の差は、無限大です。そして、できなかった日に自分を責めないことも、同じくらい大事な段取りです。責めると、明日のエネルギーが前借りで奪われていく。だから、できなかった日は「今日は休息」と決めて、明日また1ミリ動けばいい。完璧を目指さない。ゼロの日を、責めない。これが、長く続けるための心の設計です。


段取りは、見えない人だけのものじゃない

「段取りで動く」と聞くと、「冷たい」「感情がない」と思う人がいるかもしれません。

でも、僕は逆だと思っています。

段取りで動くからこそ、気合いを"本当に大事な瞬間"のためにとっておけるんです。日々の行動を段取りで自動化しておくことで、「ここぞ」という時に、フルパワーの気合いを使える。レースの最後の1km。講演の登壇直前。人生の大切な決断の場面。そういう瞬間のために、僕は普段の気合いを温存しています。

気合いと段取りは、対立するものではありません。段取りという土台があるからこそ、気合いが活きる。土台がぐらぐらだと、せっかくの気合いも空回りしてしまう。逆に、段取りで足元が固まっていれば、ここ一番で思い切り踏み込める。

そして、段取りは、視覚障害があってもなくても、誰にでも使える技術です。僕は見えないからこそ段取りを磨いてきましたが、これは見える人にとっても、大事な仕事や挑戦を続けるための、確かな武器になります。見えないことは、僕にとって不便ではあっても、不幸ではない。むしろ、誰よりも段取りを鍛えてくれた先生でした。


あなたの「気合い」を「段取り」に変える

もし、あなたが今、「気合いだけで何かを続けようとしている」なら——。

少しだけ、段取りに置き換えてみてください。やり方は、さっきの公式と同じです。漠然とした気合いを、具体的な「いつ・どこで・何回」に翻訳するだけ。

気合いは、続きません。でも、段取りは、続きます。

大切なのは、目標を「気持ち」から「行動の回数」へ翻訳することです。「頑張る」「気をつける」「意識する」——こういう気持ちの言葉は、measurできません。だから続いているかどうかも分からない。でも「週3回」「1日1ページ」「朝に1つ」なら、できたかできなかったかが、はっきり分かる。そして、段取りで動いた行動が積み重なったとき、人はいつのまにか、「気合いを超えた何か」にたどり着いています。


設計図は、誰でも、今日から描ける

ここまで、僕の「設計図」を、できるだけ具体的にお見せしてきました。スイム・バイク・ランの段取り、朝の段取り、「めんどくさい」と戦う段取り。どれも、特別な才能はいりません。必要なのは、気合いではなく、設計です。

僕は、9月のIRONMANに向けて、今日も気合いでは練習しません。段取りで練習します。そして本番、スイム3.8km、バイク180km、ラン42.195km、そのすべての一歩を、段取りで踏み出します。もちろん、ガイドや、応援してくれる人たち、家族、盲導犬シュクレと一緒に。僕の設計図は、僕だけで描いているものではなく、支えてくれる人たちと一緒に描いている設計図です。

もしあなたが、今、何かに挑んでいるなら。その挑戦の中で、「気合い」を「段取り」に変える瞬間を、一つだけ試してみてください。まずは、明日の朝のために、今夜できる「1ミリの段取り」を一つ決める。それだけで、もう設計図は描き始められています。

段取りは、誰でも、今日から、始められます。読んでくださって、ありがとうございました。

ピンチはチャンス、カギは工夫。気合いより段取り。1ミリの行動から、すべては始まります。

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「中途失明」「挑戦」「不安があっても前に進む力」をテーマに、2017年から講演を続け、ここ3〜4年は年間50回前後で登壇しています。学校・企業・自治体問わず、対応可能です。盲導犬シュクレも一緒に伺うことができます。

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最後まで読んでくれて、ありがとうございます

中澤の挑戦を、これからも見届けてもらえたら嬉しいです。日々の練習やレース、盲導犬シュクレとの暮らしを発信しています。

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