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📅 2026.08.13 | RYU NAKAZAWA
🌱 視覚障害

盲導犬と練習に行かない理由|シュクレのお留守番設計|視覚障害B2の中澤隆

⏱ 約8分で読めます(4,917字)

安心できる場所だと、シュクレはおなかを上に向けて「へそ天」で堂々と眠ります。あの無防備な寝姿にたどり着くまで、4年かかりました。

もしあなたが、犬や動物と暮らしていて、留守番をさせるたびに胸が痛むなら——。

もしあなたが、盲導犬って実際どんなふうに暮らしているんだろう、と気になっているなら——。

もしあなたが、大切な存在との「ちょうどいい距離」をどう作ればいいのか、迷っているなら——。

この記事は、あなたのためのものです。

こんにちは。視覚障害B2クラスのパラトライアスリート・中澤 隆(なかざわ りゅう)です。僕は左右ともにほとんど見えない状態で暮らしていて、外を歩くときは盲導犬のシュクレがいつもそばにいてくれます。競技では、伴走してくれるガイドと一緒にIRONMAN(226km)のサブ11時間に挑み続け、年に50回前後、学校や企業で講演もさせてもらっています。シュクレも、講演には一緒に来てくれる大切な相棒です。

講演のあと、よくこんな質問をいただきます。「練習にも、シュクレちゃんと行くんですか?」。とても自然な疑問だと思います。盲導犬がいつもそばにいるなら、走るときも一緒なんじゃないか、と。でも、答えは「行きません」です。今日は、なぜシュクレを練習に連れて行かないのか、その理由と、シュクレが安心して待っていられるように僕が設計している「お留守番」の中身を、一次情報でお伝えします。これは、見えない僕とシュクレの、4年間の暮らしそのものの話です。

📖 この記事の目次
  1. 盲導犬は、走るための犬じゃない
  2. 盲導犬の一日は、仕事と休息でできている
  3. お留守番中のシュクレに、僕が設計していること
  4. 朝4:30練習の意味は、ここにもある
  5. 「繊細」と言われたシュクレ、本当はへそ天で寝る子
  6. シュクレが「お留守番上手」になった日
  7. この信頼は、競技の「ガイドへの信頼」と同じ
  8. 盲導犬は道具じゃない。一緒に暮らす相棒だ

盲導犬は、走るための犬じゃない

まず、そもそものところからお話しさせてください。盲導犬は、視覚障害者の「歩行」をサポートするために訓練された犬です。段差を教えてくれる、角で止まってくれる、障害物をよけて誘導してくれる——盲導犬の仕事は、人がふつうに歩く速さの中で、安全を守ることに特化しています。

つまり、ランニング・サイクリング・水泳といった競技の伴走は、盲導犬の仕事ではないんです。そういう動きのための訓練は受けていません。たとえばランニングの速度はだいたい時速10km。これは、盲導犬が想定している「歩く」速さをはるかに超えています。その速さでシュクレに伴走させたら、どうなるか。

競技の伴走と、日常の歩行サポート。この両方を一頭の犬に担わせるのは、シュクレにとって負担が大きすぎます。僕の挑戦のために、シュクレ本来の役割を犠牲にするわけにはいきません。

だから、役割をはっきり分けています。練習にはガイドの人間に伴走してもらい、シュクレは自宅でお留守番。これが、僕とシュクレの基本ルールです。走る相棒はガイド、暮らしの相棒はシュクレ。それぞれの得意なところで、僕を支えてくれているんです。


盲導犬の一日は、仕事と休息でできている

意外に思われるかもしれませんが、盲導犬は一日中ずっと働いているわけではありません。シュクレの一日も、「仕事の時間」と「休息の時間」のメリハリでできています。

ハーネス(胴輪)を着けているときが、シュクレの「仕事中」。僕を誘導し、安全を守ってくれる、集中の時間です。逆に、ハーネスを外せば「お休み」。家の中ではただの甘えん坊の犬に戻って、ゴロンと寝転がったり、しっぽを振って近づいてきたりします。このオンとオフの切り替えが、犬の心と体を健やかに保つうえでとても大切なんです。

盲導犬を見かけたとき、お仕事中はそっと見守ってあげてほしい、と言われるのは、このためです。じっと見つめたり、急に触ったり、声をかけたりすると、シュクレの集中が切れてしまう。集中が切れるということは、僕の安全がそのぶん揺らぐということでもあります。だから、お仕事中のシュクレへの「そっと見守る」という気づかいは、結果として僕自身を守ってくれているんです。これは、街で盲導犬に出会ったときに、ぜひ知っておいてほしいことの一つです。

そして、仕事の集中を切らさないことと同じくらい大切なのが、休むときにしっかり休ませること。お留守番も、この「休息の時間」をきちんと確保するための、大事な一部なんです。練習に連れて行かないのは、シュクレからオフの時間を奪わないため、という意味もあります。走る時間は走る相棒のガイドと、休む時間は暮らしの相棒のシュクレと——役割を分けることが、結果としてシュクレの健康を守ることにつながっています。


お留守番中のシュクレに、僕が設計していること

シュクレに「お留守番」を頼むということは、ただ家に置いていくことではありません。シュクレが安心して待っていられる環境を、こちらが用意するということです。見えない僕は、感覚的な思いつきで動くより、決めたことを毎回きちんと積み重ねるほうが得意です。だからお留守番も、次の5つを「設計」として固定しています。

  1. 外に出る前に、必ずトイレを済ませる。留守番中に困らせないために、これは欠かしません。
  2. お留守番中の水と餌を確保する。喉が渇いたり、お腹がすいたりしないように、出る前に準備します。
  3. 留守番場所は、リビングの定位置。シュクレがいちばん安心できる、決まったゾーンです。
  4. 留守番時間は、最大3時間以内。これは朝練の範囲内に収めるためのラインです。長く一頭にしすぎない。
  5. 帰宅したら、すぐに「よく待ったね」と褒める。待っていてくれたことを、まっすぐ言葉にして伝えます。

🔑 留守番は「我慢の時間」じゃない

僕がいちばん意識しているのは、お留守番を「シュクレが我慢する時間」にしないことです。トイレも、水も、安心できる場所も、時間の長さも、ぜんぶ先に整えておく。そうすれば、留守番は耐える時間ではなく、シュクレがゆっくり休める時間になります。我慢させるのではなく、休ませる。同じ「留守番」でも、設計しだいで中身はまるで変わるんです。


朝4:30練習の意味は、ここにもある

僕の練習スロットは、朝の4:30〜6:00。早起きはアスリートとしての都合もありますが、実はこの時間設定には、シュクレ側の理由もあるんです。

シュクレは、僕が起きるまで、ぐっすり寝ています。僕が4:30に静かに家を出ても、シュクレはまだ夢の中。そして3時間後、僕が練習から帰ってくる頃に、ちょうどシュクレも目を覚ます——ぴったり噛み合うんです。つまり、僕が朝いちばん早い時間に練習を済ませてしまえば、シュクレの生活リズムをほとんど崩さずにすむ。シュクレからすれば、僕が出かけていたことにすら、あまり気づいていないかもしれません。

盲導犬と暮らすには、自分のスケジュールを、犬の生活リズムに合わせる必要がある。

「早起きはつらくないですか」とよく聞かれますが、僕にとって朝4:30は、ただの練習時間ではありません。アスリートとしての時間でありながら、同時にシュクレを大切にするための時間でもある。だから続けられるんです。一つの行動が、競技と暮らしの両方にちゃんと意味を持っている——朝練のいちばん奥にある理由が、これです。


「繊細」と言われたシュクレ、本当はへそ天で寝る子

少し、シュクレの人柄——いえ、犬柄の話をさせてください。シュクレは、出会った頃に「繊細な子」と言われていました。物音に敏感で、環境の変化に気をつけてあげてね、と。だから最初は、僕もずいぶん気をつかいました。

でも、4年一緒に暮らしてきて分かったのは、シュクレは繊細なだけの子ではない、ということです。安心できる場所では、おなかを上に向けて、いわゆる「へそ天」で堂々と寝るんです。犬がおなかを見せて眠るのは、心から安心しているサイン。あの無防備な寝姿を見るたびに、「ああ、この家を、この暮らしを、信頼してくれているんだな」と思って、胸が温かくなります。

繊細だからこそ、安心できる環境を整えてあげれば、こんなにもくつろいでくれる。お留守番の設計を一つひとつ固定しているのも、この子の繊細さに、こちらの一貫性で応えるためなんです。


シュクレが「お留守番上手」になった日

いまでこそ、僕が「行ってくるね」と声をかけると、シュクレは自分の定位置にスッと行って、伏せて待ってくれます。でも、最初からそうだったわけではありません。

シュクレと暮らし始めて、いまは4年目。最初の頃は、お留守番中に物を倒してしまったり、玄関でずっと僕を待ちすぎてしまったりすることがありました。慣れない環境で、不安だったんだと思います。それが少しずつ変わって、4年かけて、シュクレは「お留守番上手」になっていきました。

ここで大事なことがあります。これは、シュクレが偉いだけの話ではないんです。僕のほうが「お留守番される側」として、一貫した動きを続けてきたからでもある。具体的には、こういうことです。

同じ場所、同じ時間、同じ言葉。この繰り返しが、シュクレに「いつもどおりだ。大丈夫だ」という安心を届けます。シュクレは、僕の一貫性を信頼してくれている。お留守番上手は、シュクレ一頭の成長ではなく、僕とシュクレが二人で作り上げてきた、4年分の信頼の形なんです。


この信頼は、競技の「ガイドへの信頼」と同じ

シュクレとの間に育ったこの信頼は、実は、僕が競技でガイドに寄せている信頼と、まったく同じ構造をしているんです。

見えない僕は、レースで一本のロープをガイドと握り合い、「右だよ」「段差だよ」という声を全身で信じて走ります。相手を信じきれなければ、スピードは出せないし、そもそも前へ進めません。その信頼は、決して一日では生まれない。一緒に練習を重ね、合図のタイミングを合わせ、お互いのクセを知っていく——その積み重ねの先に、ようやく「この人になら、自分の体を預けられる」という信頼が育ちます。

🔑 信頼は、一貫した積み重ねからしか生まれない

ガイドへの信頼も、シュクレへの信頼も、生まれ方は同じです。同じことを、ぶれずに、繰り返す。同じ合図、同じ声かけ、同じ約束。その一貫性を相手が感じ取って、はじめて「この相手は信じられる」となる。シュクレが定位置で待ってくれるのも、ガイドにロープを預けて走れるのも、根っこは一つ。信頼は、派手な一発ではなく、地味な一貫性の積み重ねからしか生まれないんです。

だから僕は、シュクレとの暮らしも、ガイドとの競技も、同じ姿勢で向き合っています。相手を信じてもらうために、まず自分が、ぶれずに同じであり続ける。それが、見えない僕が支えられて生きていくための、いちばん大事な土台なんです。


盲導犬は道具じゃない。一緒に暮らす相棒だ

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。「盲導犬と暮らす」と聞くと、シュクレが一方的に僕を助けてくれているイメージが強いかもしれません。でも実際は、そうではないんです。

盲導犬は「便利な道具」じゃない。「一緒に暮らす相棒」だ。

僕とシュクレの関係は、どちらかが一方的に助ける関係ではなく、お互いに、お互いの生活リズムを尊重し合う関係です。練習に連れて行かないのも、お留守番の環境を整えるのも、朝4:30に動くのも、ぜんぶ、シュクレを大切に思っているからです。シュクレが僕の歩く世界を支えてくれるように、僕もシュクレが安心して休める暮らしを支える。その支え合いの輪の中で、二人の毎日は成り立っています。

今朝もシュクレは、僕の朝練の間、リビングの定位置で静かに眠っていました。帰ってきた僕を、しっぽを振って迎えてくれた。だから今日も、まっすぐ伝えました。「よく待ったね」と。

もしあなたが、犬や、人や、誰か大切な存在との距離に迷っているなら。相手のために何でもしてあげることだけが、愛情ではないのかもしれません。相手のリズムを尊重して、こちらが一貫してあり続けること。それもまた、深い信頼の育て方です。シュクレが教えてくれた、僕の実感です。


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「視覚障害B2の生活」「IRONMAN サブ11挑戦」「1ミリの行動」「気合いより1ミリ」をテーマに、講演を続けています。学校・企業・自治体問わず、対応可能です。盲導犬シュクレも一緒に伺うことができます。

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最後まで読んでくれて、ありがとうございます

中澤の挑戦を、これからも見届けてもらえたら嬉しいです。日々の練習やレース、盲導犬シュクレとの暮らしを発信しています。

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RYU NAKAZAWA | 視覚障害B2 パラトライアスリート・プロ講演家
盲導犬シュクレと共に、1ミリの行動を続ける人