← 記事一覧に戻る
📅 2026.09.03 | RYU NAKAZAWA
🎤 講演

講演前日の僕|台本と移動と前泊の段取り、全部見せます

⏱ 約8分で読めます(4,989字)

前泊した宿の静かな部屋で、僕は台本をもう一度声に出し、翌朝あわてないように、持ち物と服を手で触って分かる場所へ、一つずつ並べていきます。本番は、当日ではなく、この前日の夜から始まっています。

もしあなたが、大事な本番の前に「ちゃんと準備できているだろうか」と不安になるなら——。

もしあなたが、即興が苦手で、その場の対応に自信が持てないなら——。

もしあなたが、「気合いだけでは乗り切れない」と、うすうす感じているなら——。

この記事は、あなたのためのものです。

こんにちは。視覚障害B2クラスのパラトライアスリート・中澤 隆(なかざわ りゅう)です。盲導犬シュクレと一緒に、IRONMAN(226km)のサブ11時間挑戦を続けながら、年間50回前後の講演を9年間続けています。

今日は、講演の前日に僕が何をしているかを、台本・移動・前泊の段取りまで、全部お見せします。本番は当日に始まるのではありません。本番は、前日に始まっているのです。

📖 この記事の目次
  1. 即興が苦手な僕が、前日を大切にする理由
  2. 前日の中心は「台本を作り込む」こと
  3. 移動は、ガイドと一緒に。時に妻と
  4. 遠方の会場は、前泊する
  5. 前日の持ち物チェックは、触って確かめる
  6. 気合いではなく、段取りで不安を減らす
  7. 当日の朝は、「確認するだけ」にしておく
  8. 本番は、前日に始まっている

即興が苦手な僕が、前日を大切にする理由

最初に正直に言います。僕は、即興がとても苦手です。これは自分でよく分かっている、僕の特性です。その場の思いつきで、うまく話を回すことができません。だから、急に話を振られると、頭が真っ白になってしまうこともあります。

でも、これは弱点であると同時に、僕の強みの源でもあります。即興が苦手だからこそ、僕は徹底的に準備します。準備した語りなら、僕は強い。何度も練り上げた言葉なら、まっすぐ届けられる。だから僕は、準備型の講演家として、9年間やってきました。

その準備の中心が、講演の前日です。本番当日は、もう手を入れる余裕はありません。会場に着いたら、あとは話すだけ。だからこそ、前日のうちに、できることを全部やっておく。気合いより、段取り。これが僕の合言葉です。

かつての僕は、視覚に障害を持つ前から、即興が苦手でした。学生時代も、急に意見を求められるのが怖くて、できれば逃げたいタイプでした。だから、これは目のせいではなく、もともとの僕の性格です。でも、視覚障害者になってトライアスロンや講演に出会い、僕は気づきました。苦手なことは、無理に克服しなくていい。その代わりに、得意な「準備」で支えればいいのだと。即興に頼らないと決めた瞬間、僕はずいぶん楽になりました。前日の段取りは、その「決断」を形にしたものなのです。


前日の中心は「台本を作り込む」こと

前日、僕が一番時間をかけるのが、台本の作り込みです。僕の講演には、決まった鉄板の流れがあります。冒頭で「表情が見えないので、声や拍手で反応してください」とお願いするところから、最後に「Yes I Can」という動画を流すところまで、全体の骨組みは決まっています。

でも、毎回まったく同じではありません。話す相手が小学生か、企業の方か、自治体の方かで、言葉の選び方や、どのエピソードを厚くするかを変えます。前日は、その日の聴衆に合わせて、台本を細かく調整していきます。

🔑 台本は「読む」ためでなく「体に入れる」ため

僕は台本を、当日読み上げるわけではありません。前日に何度も声に出して、体に流れを染み込ませるために作ります。流れが体に入っていれば、本番で多少のことがあっても、慌てずに戻ってこられる。台本は、僕にとっての「安心の地図」なのです。

笑いの山場である、彼女とシュクレの写真を間違えるところ。静かに語る、目が見えなくなっていく話。前日に、どこで笑ってもらい、どこで静かになってもらうか、その波の設計を頭に入れ直します。この設計があるから、即興が苦手な僕でも、自信を持って本番に立てるのです。

台本を作り込むと言っても、一字一句を丸暗記するわけではありません。それをやると、かえって本番で「次は何だっけ」と詰まったときに、頭が真っ白になってしまいます。僕が作り込むのは、言葉そのものより、話の順番と、気持ちの流れです。ここで笑ってもらって、次に少し落として、また持ち上げる。その「流れ」を体に入れておけば、細かい言い回しは、その場で自然に出てきます。これは、何度も声に出して練習することでしか、身につきません。だから前日の夜は、何度も声に出して、流れを体に通すのです。


移動は、ガイドと一緒に。時に妻と

僕は視覚障害B2なので、一人で初めての場所に行くのは大変です。だから、講演会場への移動は、ガイドと一緒に行きます。時には、妻がその役割を担ってくれることもあります。

移動そのものが、僕にとっては準備の一部です。知らない駅、知らない道、知らない会場。視覚障害があると、移動の段取りを前もって組んでおくことが、当日の安心に直結します。どの時間の電車に乗るか、どこで乗り換えるか、会場の最寄りからどう歩くか。事前に頭の中に地図を作っておきます。

支えてもらうことは、かつての僕には情けないことに感じられました。けれど今は、まったく違います。ガイドは、助けてもらう相手ではなく、対等なチームです。一緒に移動し、一緒に会場へ向かう仲間。繋がる輪の中で、僕は安心して本番に臨めるのです。

これは、トライアスロンで学んだことと、まったく同じです。トライアスロンでも、僕はガイドと一緒に走ります。一本のロープでつながって泳ぎ、二人乗りの自転車を漕ぐ。最初は「助けてもらう側」になるのが情けなかった。でも、何度も一緒に挑むうちに、ガイドは支える側、支えられる側という関係ではなく、同じゴールを目指す、対等なチームなのだと気づきました。講演の移動も、それと同じです。一緒に会場へ向かうこと自体が、もう本番に向けたチームの時間なのです。


遠方の会場は、前泊する

会場が遠いときは、僕は迷わず前泊を選びます。当日の朝に長い距離を移動して、ぎりぎりに会場入りする——これは、僕の段取りにはありません。

理由は、いくつもあります。まず、移動の疲れを本番に持ち込みたくない。視覚障害があると、慣れない場所への移動は、思っている以上に体力を使います。次に、当日のトラブルに備えたい。電車が遅れたら、ぎりぎりの予定は崩れます。前泊しておけば、その不安が消えます。そして何より、会場の近くで一晩過ごすと、心が落ち着きます。「もう、すぐそこまで来ている」という安心感が、前日の僕を支えてくれるのです。

本番の質は、前日にどれだけ余白を作れたかで決まる。ぎりぎりの段取りは、ぎりぎりの本番しか生まない。

前泊した夜は、宿で台本を最終確認します。静かな部屋で、もう一度流れを声に出して、体に入れ直す。そして、翌朝に慌てないよう、持ち物や服を、触って分かる場所にきちんと並べておきます。守りたい時間を、先に確保しておく。これが、準備型の僕のやり方です。

前泊には、もうひとつ大切な意味があります。それは、本番前の夜を、自分のペースで過ごせるということです。慣れない宿でも、夜のうちに部屋の様子を手で確かめ、どこに何があるかを頭に入れておけば、翌朝、落ち着いて動けます。視覚障害があると、新しい環境に慣れるのに、少し時間がかかります。その時間を、前日のうちに確保しておく。当日の朝にバタバタと環境に慣れようとするのと、前夜にゆっくり慣れておくのとでは、本番の落ち着きがまるで違うのです。回復が競技力に直結する持久系アスリートとしても、前泊で体を休めることは、譲れない段取りのひとつです。


前日の持ち物チェックは、触って確かめる

前日の夜、僕は持ち物を一つずつ確認します。視覚障害があるので、目で「あるな」と確認するのではなく、手で触って、定位置に置いていく方法をとります。

定位置を決めておくと、朝、探し物でばたつくことがありません。探し物に使う時間は、不安を生む時間です。前日のうちに、その時間をゼロにしておく。これも、立派な段取りです。視覚障害があると、一度探し始めると、なかなか見つからずに焦ってしまう。だから僕は、「探さなくていい状態」を、前夜に作っておくのです。

そして、シュクレが一緒の日は、シュクレのコンディションも整えておきます。講演中、シュクレはたいてい僕の足元で静かに寝ています。その安心した姿があるだけで、僕も落ち着いて話せます。相棒の調子を整えることも、前日の大事な仕事のひとつです。


気合いではなく、段取りで不安を減らす

本番前に、不安がゼロになることはありません。9年やってきた今でも、前日には緊張します。でも僕は、その不安を気合いで押さえつけようとはしません。気合いは、長続きしないからです。

代わりに、僕は段取りで不安を減らします。台本を作り込めば、「話す内容」の不安が減る。移動を組んでおけば、「たどり着けるか」の不安が減る。前泊すれば、「間に合うか」の不安が減る。持ち物を並べておけば、「忘れ物」の不安が減る。不安を一つずつ、具体的な行動で消していくのです。

🔑 不安は「気合い」では消えない。「段取り」で消える

「がんばるぞ」と気合いを入れても、不安はそのまま残ります。でも、「明日の電車はこれ」「台本のこの部分はこう話す」と具体的に決めていくと、不安は確実に小さくなります。気合いより段取り。これは、本番に強くなるための、いちばん確かな方法です。


当日の朝は、「確認するだけ」にしておく

前日の段取りで一番大事にしているのは、当日の朝に、新しい判断を残さないことです。朝になってから「どの服にしよう」「持ち物は揃ったかな」「電車は何時だっけ」と考えるようでは、もう段取りが足りていません。

視覚障害があると、朝の判断ひとつひとつに、時間と集中力を使います。だから僕は、判断はすべて前日の夜に済ませておいて、当日の朝は並べておいたものを、順番に確認するだけにします。服は上から着るだけ。持ち物は触って確かめるだけ。電車の時間は決まっている。考えることをゼロに近づけておくと、朝の僕は、本番に向けて気持ちを整えることだけに、集中できます。

これは、毎日の習慣にも通じています。僕は普段から、翌日にやることを、夜のうちにスマートフォンのメモに、音声で残しています。考えることを前の晩に前倒ししておく。すると、当日の自分は迷わずに動ける。朝の自分を助けるのは、前夜の自分なのです。講演の前日も、まったく同じ考え方で動いています。

「気合いで早起きしてがんばろう」では、続きません。眠い朝に、たくさんの判断を迫られたら、誰だってつらい。でも、判断が前夜に済んでいれば、朝の体は、ただ流れに乗るだけでいい。がんばらなくても動ける仕組みを、前日のうちに作っておく。これが、準備型の僕が、9年間講演を続けてこられた、いちばんの理由かもしれません。気合いは続かないけれど、段取りは、毎回の自分を確実に助けてくれます。


本番は、前日に始まっている

講演当日、会場に立った僕は、落ち着いています。緊張がないわけではありません。でも、前日にやれることを全部やったという事実が、僕を支えてくれます。

台本は体に入っている。移動は組んである。前泊で体は整っている。持ち物は揃っている。シュクレも調子がいい。だから、あとは目の前の人たちに、まっすぐ語りかけるだけ。前日の段取りが、当日の自分を助けてくれるのです。当日の僕が落ち着いていられるのは、前日の僕が、ていねいに準備してくれたおかげ。いわば、昨日の自分からの、いちばんのプレゼントなのです。

もしあなたが、即興が苦手で、本番に不安を感じるなら、僕はこう伝えたいです。それは、弱点ではありません。準備をていねいにする理由です。前日のうちに、できることを一つずつ積み上げていけば、本番のあなたは、ちゃんと支えられています。

本番は前日に始まっている。気合いより段取り。前日の1ミリの準備が、当日のあなたを連れていってくれる。

僕はこれからも、講演の前日を大切にします。準備型の僕が、繋がる輪の中で、誰かの心に言葉を届けられるように。あなたの本番の前日も、どうか焦らず、ひとつずつ。その積み重ねが、いちばんの味方になります。


🎤 講演のご依頼・お問い合わせ

「視覚障害B2の生活」「IRONMAN サブ11挑戦」「1ミリの行動」「気合いより1ミリ」をテーマに、講演を続けています。学校・企業・自治体問わず、対応可能です。盲導犬シュクレも一緒に伺うことができます。

📧 つなひろワールドへお問い合わせ
💬コメント

最後まで読んでくれて、ありがとうございます

中澤の挑戦を、これからも見届けてもらえたら嬉しいです。日々の練習やレース、盲導犬シュクレとの暮らしを発信しています。

📷 Instagramをフォロー ▶️ YouTubeを見る

新しい記事が出たら、メールでお知らせします。すぐ下のフォームから登録できます ↓

RYU NAKAZAWA | 視覚障害B2 パラトライアスリート・プロ講演家
盲導犬シュクレと共に、1ミリの行動を続ける人