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📅 2026.08.04 | RYU NAKAZAWA
🌱 視覚障害

視覚障害B2が初めての場所に行く|頭の中の地図の作り方・段取り1ミリ

⏱ 約10分で読めます(6,244字)

看板の文字は読めない。「○○出口はこちら」の矢印も見えない。初めて降りた駅で、僕は地理の情報がほぼゼロの状態で立っています。それでも僕は、スマホを顔に近づけ、画面の大きな矢印を頼りに歩き出します。

もしあなたが、「視覚に障害のある人は、初めて行く場所に、どうやって辿り着くんだろう」と素直に気になったことがあるなら——。

もしあなたが、新しい場所に行くたびに、道に迷わないかと緊張してしまうなら——。

もしあなたが、「初めての場所」というだけで、出かけること自体に身構えてしまうなら——。

この記事は、あなたのためのものです。

こんにちは。視覚障害B2クラスのパラトライアスリート・プロ講演家の中澤 隆(なかざわ りゅう)です。盲導犬のシュクレと一緒に、年間50回前後、全国の学校・企業・自治体を講演で回りながら、IRONMAN(スイム3.8km・バイク180km・ラン42.195km=合計226km)のサブ11時間挑戦を続けています。視覚障害B2というのは、目の前のものはぼんやり分かるけれど、看板の文字を読んだり、遠くの目印を見つけたりするのが、とても難しい状態だと思ってもらえれば近いです。

講演の仕事をしていると、初めての場所だらけです。初めての駅、初めての学校、初めてのホテル、初めての会場。見えにくい僕にとって、知らない土地は、地理の情報がほとんどゼロの状態です。今日は、そんな僕が、どうやって初めての場所に辿り着いているか——僕が頭の中に「地図」を作る方法を、一次情報で、できるだけ具体的にお伝えします。これは気合いの話ではなく、誰でも真似できる段取りの話です。

📖 この記事の目次
  1. 「見えない場所」へ行く、ということ
  2. 準備①:Googleマップのライブビューで「矢印」を辿る
  3. 準備②:主催者に「迎えに来てもらえますか」と聞く
  4. 準備③:駅は「最寄駅・乗換駅・目的駅」だけ整理する
  5. 当日:盲導犬シュクレと「現場で確かめる」
  6. 会場に着いたら、必ず「もう一周」する
  7. 「初めて」を減らすことが、自由を増やす
  8. あなたへ——あなたの「頭の中の地図」の作り方

「見えない場所」へ行く、ということ

講演で全国を回ると、本当に初めての場所ばかりです。

晴眼の方なら、初めての駅に降りても、看板を見て出口を探し、地図を見て方角をつかみ、目印の建物を頼りに歩いていけると思います。でも、視覚障害B2の僕には、そのどれもが難しい。

看板の文字は読めません。「○○出口はこちら」の矢印も見えません。目印になるはずの大きな建物も、ぼんやりとしか分からない。目的地までの距離感も、自分が今どこにいるのかも、つかみにくい。一言で言えば、初めての場所では、僕は地理的な情報がほぼゼロの状態で立っているんです。

その状態で、迷わずに目的地へ辿り着くにはどうするか。答えは、はっきりしています。事前準備が、すべてです。現場で気合いを入れてなんとかするのではなく、出かける前の段取りで、勝負はほとんど決まっている。これは、僕がずっと大切にしている考え方そのものです。カギは気合いより段取り。初めての場所こそ、その真価が問われます。

初めての場所も、気合いで切り拓くのではなく、段取りと言葉で「頭の中の地図」を作る。

準備①:Googleマップのライブビューで「矢印」を辿る

初めての場所で、僕が実際に一番頼りにしているのが、Googleマップアプリのライブビュー機能です。これは、スマホのカメラを使って、現実の風景の上に、進むべき方向の矢印を重ねて表示してくれる機能です。いわゆるAR(拡張現実)というやつです。

使い方は、とてもシンプルです。

「ここを左へ」「ここをまっすぐ」と、画面の中の大きな矢印が、一歩ずつ次の動きを教えてくれる。視覚障害B2の僕でも、スマホを顔のすぐ近くまで寄せれば、その大きな矢印を確認できるんです。文字の細かい地図は読めなくても、「矢印が指している方向に進む」だけなら、僕にもできる。これは本当に大きな発見でした。

昔は、初めての道は、事前に道順を全部、頭に叩き込んでおく必要がありました。「駅を出て、まっすぐ何メートル、二つ目の角を右」と、言葉で完璧に暗記しておく。少しでもズレると、もう自分がどこにいるのか分からなくなる。それに比べて、今は、Googleマップが初めての道でも、その場で一歩ずつ次の動きを教えてくれる。これは、僕の「頭の中の地図」を作るための、現代の本当に強力なツールです。

テクノロジーが、視覚障害B2の僕の世界を、どれだけ広げてくれたか。これは、その一番分かりやすい例です。盲導犬のシュクレと、Googleマップ。この二つが揃ったことで、僕は初めての場所にも、自分の足で行けるようになりました。少し前の自分には、想像もできなかったことです。

🔑 細かい地図は読めなくても、矢印なら辿れる

Googleマップのライブビューは、カメラ越しの風景に大きな矢印を重ねてくれる。スマホを顔に近づければ、見えにくい僕でも方向が分かる。「全部を見る」のではなく「次の一歩の方向だけ」をつかむ。テクノロジーは、できないことを、できることに変えてくれます。


準備②:主催者に「迎えに来てもらえますか」と聞く

テクノロジーと同じくらい大切な準備が、もう一つあります。それは、人に頼ることです。

講演の主催者には、当日の前に、必ずこう聞くようにしています。

僕の経験では、9割以上の主催者の方が、快く迎えに来てくださいます。信頼できる人と駅で合流できれば、そこから先のナビゲーションは、一気に楽になります。一番難しい「初めての道を一人で辿る」という部分を、まるごと任せられるからです。

「自分一人で全部やり切る」のを手放すことは、悪いことでも、恥ずかしいことでもありません。むしろ僕は、頼ることで、お互いの関係が深まると思っています。これは、見えにくい僕が長い時間をかけて学んだ、生活の知恵です。

考えてみてください。主催者の方と、最寄りの駅で待ち合わせて、会場まで一緒に10分ほど歩く。その10分のあいだに、いろんな話ができます。「今日は来てくださってありがとうございます」「どんな雰囲気の学校なんですか?」「生徒さんたち、楽しみにしてくれていますよ」。講演の本番が始まる前に、もうお互いの心が温まっている。一人で迷いながら会場に着くより、ずっと良いスタートが切れるんです。頼ることは、関係を作る入り口でもあります。

「一人で完結する」を手放すと、その分だけ、人との繋がりが生まれる。

準備③:駅は「最寄駅・乗換駅・目的駅」だけ整理する

移動そのものの段取りで、僕が事前に確認するのは、たった3つだけです。

  1. 最寄りの駅を、何時に出るか
  2. 乗り換える駅はどこで、何分かかるか
  3. 目的地の駅には、何時に着くか

これを、iPhoneのメモに書いておいて、家を出る前に、音声の読み上げで確認します。視覚障害B2の僕は、画面の文字を読むより、耳で聞くほうが速くて確実なことが多い。だからメモも、目で読むためでなく、耳で聞くために書いています。

ここでも大事なのは、情報を絞ることです。電車の乗り換えには、本当はもっとたくさんの情報があります。何番線か、どの車両に乗ると乗り換えが近いか、運賃はいくらか。でも、それを全部覚えようとすると、頭がパンクします。だから僕は、「出る・乗り換える・着く」の3点だけに絞る。あとの細かいことは、その場で人に聞けばいい、と割り切っています。

駅の細かい構造——北口なのか南口なのか、改札がどこにあるのか——は、無理に暗記しません。駅員さんに聞けばいいからです。JRや私鉄の駅員さんには、視覚障害のある人をサポートする訓練を受けている方が多くいます。改札で「目的地のホームまでお願いします」と伝えれば、ホームまで腕を貸して案内してくれる。これは、僕たちに用意されている、本当にありがたい仕組みです。使わない手はありません。

🔑 覚えるのは3点だけ、あとは人に聞く

移動で事前に固めるのは「最寄駅を出る時刻・乗換駅・目的駅の到着時刻」の3つだけ。細かい駅の構造は暗記せず、駅員さんに頼る。情報を絞って、頼れるところは頼る。見えにくい人にとって、これが一番すり減らない移動の仕方です。


当日:盲導犬シュクレと「現場で確かめる」

ここまでが「予習」です。そして当日、いよいよ現場に着いてから、その予習を「本番の地図」に作り替えていきます。事前に立てた「頭の中の地図」を、シュクレと一緒に、現場で確かめながら更新していくんです。

具体的には、こんな流れです。

これが、「頭の中の地図」の、本番の組み立てです。事前準備は「予習」、現場での確認は「本番」。この二つを組み合わせることで、初めての場所でも、迷わずに動けるようになります。どちらか片方だけでは足りません。予習だけでは現実とのズレが埋まらないし、予習なしの本番は、ぶっつけで怖すぎる。両方を重ねるからこそ、安心して動けるんです。

シュクレの存在は、ここで本当に大きい。シュクレは、障害物をよけてくれたり、段差や階段の手前で止まって教えてくれたりします。Googleマップが「方向」を教えてくれるなら、シュクレは「足元の安全」を守ってくれる。テクノロジーと盲導犬、その両方に支えられて、僕の移動は成り立っています。一人で歩いているように見えても、僕は決して一人ではなく、たくさんの支えの輪の中を歩いているんです。

予習で地図の下書きを作り、現場でシュクレと一緒に、その地図を本物にしていく。

会場に着いたら、必ず「もう一周」する

講演が始まる前、会場に着いたら、僕は必ず、もう一周、歩いて確かめます。

これらを、本番が始まる前に、体に覚え込ませておきます。一度、自分の足で歩いて、手で触れて確かめておけば、講演中に動くときも、迷いません。マイクの前に立つときも、水を取るときも、視線を落として確認しなくても、体が場所を覚えている。

なぜ、ここまでするのか。それは、聴いてくれる人に、安心を届けたいからです。登壇者がステージの上でまごついて、どこに立てばいいのか分からずにウロウロしていたら、聴いている人は、内容に集中するどころか、ハラハラしてしまいます。「この人、大丈夫かな」と思わせてしまう。それは、僕の伝えたいことが届く前に、余計な不安を与えてしまうということです。

段取りで、自分の迷いをゼロにしておく。そうすれば、聴いてくれる人は、僕の見えにくさを心配することなく、話の中身そのものに集中してくれます。自分の段取りが、相手の安心になる。これは、外食でも、移動でも、講演でも、僕がずっと一貫して大切にしていることです。段取りは、自分のためだけでなく、目の前の人のためでもあるんです。

🔑 段取りで迷いを消すと、相手が安心する

会場に着いたら、登壇位置・マイク・出口まで、もう一周して体に覚え込ませる。自分の迷いをゼロにしておけば、聴いてくれる人は内容に集中できる。段取りは自分のためだけでなく、目の前の人に安心を届けるためのものでもあります。


「初めて」を減らすことが、自由を増やす

視覚障害B2の僕にとって、「初めての場所」は、正直に言えば、緊張の源です。どれだけ段取りを整えても、初めての場所には、やっぱり気を張ります。

でも、ここに希望があります。同じ場所に繰り返し行けば、「頭の中の地図」が、どんどんストックされていくんです。一度しっかり地図を作った場所は、二回目、三回目になると、緊張が一気に減ります。「ああ、ここは知っている」という感覚は、見えにくい僕にとって、何よりの安心材料です。

何度も通った主要駅は、構造をだいぶ覚えました。よく使う空港も、出発までの流れが体に入っています。講演先も、毎回違う場所だけれど、「駅で合流して、会場へ歩いて、もう一周して確かめる」という流れ自体は、いつも同じです。流れが同じなら、場所が変わっても、応用が効く。

だから僕は、こう考えています。「初めて」を、一回ずつ「二回目」に変えていく。これが、見えにくい僕にとっての、世界を広げる1ミリの行動です。一度行った場所は、二回目からぐっと楽になる。そうやって「行ける場所」を一つずつ増やしていくことが、そのまま僕の「自由」を増やしていくことになります。

正直、迷ったことも、たくさんあります。曲がる角を間違えて、見当違いの方向に進んでしまったこと。駅で出口を間違えて、反対側に出てしまったこと。でも、その失敗こそが、次の地図の材料になります。「あそこは間違えやすいから、次は駅員さんに念押しで聞こう」。失敗を一つ重ねるたびに、僕の頭の中の地図は、少しずつ正確になっていく。迷った経験は、無駄になりません。それも全部、自由を増やすための1ミリです。

「初めて」を一つずつ「二回目」に変えていく。それが、自由を増やすということ。

あなたへ——あなたの「頭の中の地図」の作り方

最後に、これを読んでくれているあなたに、手紙のように伝えたいことがあります。

ここまで、視覚障害B2の僕の話をしてきました。でも、「頭の中の地図の作り方」は、見えにくい人だけのものではありません。新しい場所に行くたびに緊張してしまう人、迷子になるストレスを減らしたい人——きっと、みんなの役に立つはずです。

あなたが初めての場所に行くとき、よかったら、こんなことを試してみてください。

  1. 出かける前に、手順を「言葉」で書いておく(地図アプリだけに頼らず、言葉でも持っておく)
  2. 現地では、人に頼る(駅員さん、待ち合わせ相手、通りすがりの人。聞くのは恥ずかしいことではありません)
  3. 着いたら、もう一周して確かめる(自分が今どこにいて、まわりに何があるかをつかむ)
  4. 二回目に備えて、要点をメモしておく(それは、次に来るあなた自身への贈り物です)

これだけで、初めての場所のストレスは、ぐっと減ります。気合いで道を切り拓くより、段取りで地図を作るほうが、ずっと長く続きます。そして、続けられる方法だけが、本当にあなたの世界を広げてくれます。

僕は今日も、初めての場所へ向かいます。シュクレと一緒に、スマホの矢印を頼りに、駅員さんや主催者の方に支えられて。見えにくくても、僕は、行きたい場所に行けます。それは、特別な才能のおかげではなく、ただ段取りを整えて、たくさんの人に頼ってきたからです。

初めての場所は、誰にとっても、少し怖いものです。でも、頭の中に地図を一つ作るたびに、世界はあなたに、また少し優しくなります。あなたの次の「初めて」が、無事に「二回目」に変わりますように。そして、その一歩を、あなたを支えてくれる誰かと一緒に踏み出せますように。心から、そう願っています。


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「視覚障害B2の生活」「IRONMAN サブ11挑戦」「1ミリの行動」「気合いより1ミリ」をテーマに、講演を続けています。学校・企業・自治体問わず、対応可能です。盲導犬シュクレも一緒に伺うことができます。

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最後まで読んでくれて、ありがとうございます

中澤の挑戦を、これからも見届けてもらえたら嬉しいです。日々の練習やレース、盲導犬シュクレとの暮らしを発信しています。

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