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📅 2026.08.21 | RYU NAKAZAWA
🌱 視覚障害

盲導犬シュクレ|講演中はぐっすり寝ている相棒

⏱ 約8分で読めます(4,908字)

「ちょっと繊細な子です」と紹介されて身構えていた僕の前で、初対面のシュクレは、おなかを丸出しにして、ごろんと「へそ天」で寝転がっていました。「……どこが繊細だよ!」——それが第一声でした。

もしあなたが、毎日まじめにがんばりすぎて、少し肩に力が入っているなら——。

もしあなたが、「ちゃんとしなきゃ」と気を張りつめて、疲れてしまっているなら——。

もしあなたが、くすっと笑える話で、心をゆるめたい気分なら——。

この記事は、あなたのためのものです。

こんにちは。視覚障害B2クラスのパラトライアスリート・中澤 隆(なかざわ りゅう)です。盲導犬シュクレと一緒に歩きながら、IRONMAN(226km)のサブ11時間挑戦を続け、年間50回前後の講演で全国を回っています。27歳で緑内障がわかり、31歳で視覚障害者になり、それでも今も挑み続けている、46歳のおじさんです。

今日は、いつもの「ちょっといい話」から少し離れて、僕の相棒・盲導犬シュクレの、なんとも愛おしい素顔をご紹介します。
仕事中は、どや顔の働き者。
でも講演中は、なんと、ぐっすり寝ているんです。
そんなシュクレの話に、しばらくお付き合いください。

📖 この記事の目次
  1. シュクレという名前の意味
  2. 「ちょっと繊細な子です」と言われたのに
  3. 仕事中のシュクレは、どや顔の働き者
  4. ハーネスを外すと、へそ天になる
  5. 講演中は、ぐっすり寝ている
  6. ゆるさの裏にある、深い信頼
  7. あなたへ

シュクレという名前の意味

まず、名前の話から。

僕の相棒の名前は、シュクレといいます。
これはフランス語で「砂糖」、つまり「甘い」という意味の言葉です。

シュークリームって、ありますよね。
あれはフランス語で「シュー・ア・ラ・クレーム」といって、その「シュー」の親戚みたいな響きが、シュクレという名前です。
甘くて、ふわっとしていて、みんなに愛される。
まさに、シュクレにぴったりの名前だと思っています。誰が名付けたのか、本当にセンスがいいなと、いつも感心してしまいます。

🔑 名前のとおりの、甘えん坊

砂糖のように甘い名前のシュクレは、名前に負けないくらいの甘えん坊です。
仕事を離れると、とことん甘えてくる。
その姿に、僕は毎日、心をほぐしてもらっています。

名前を呼ぶたびに、少しだけ口元がゆるむ。
そんな名前を、この子に付けてもらえてよかったなと、いつも思っています。
甘い名前は、甘えん坊の相棒に、本当によく似合っています。講演で「相棒のシュクレです」と紹介すると、会場から「かわいい名前ですね」と、ふわっとあたたかい空気が流れます。その名前ひとつで、場が和らぐ。シュクレは、名前の響きからして、もう人を笑顔にする力を持っているんです。


「ちょっと繊細な子です」と言われたのに

シュクレと初めて会う前、盲導犬の訓練士さんから、こんなふうに紹介されました。

「この子は、ちょっと繊細な子です」と。

繊細。
なるほど、デリケートで、少し気をつかってあげる必要があるのかな。
僕は、そんなふうに身構えていました。優しく、ゆっくり、この子のペースに合わせてあげよう。そう心に決めて、初対面の日を迎えたんです。

ところが、です。
実際に対面したシュクレは、初日から、おなかを丸出しにして、ごろんと「へそ天」で寝転がっていたんです。

「……どこが繊細だよ!」
それが、シュクレと出会った僕の、正直な第一声でした。

へそ天というのは、犬がおなかを上にして、手足をだらんと広げて寝るポーズのことです。
これは、「ここは安心できる場所だ」と感じているときにする、完全リラックスの姿勢なんだそうです。

犬にとって、おなかは一番の急所だと聞きます。そのおなかを、無防備にぺろんと見せて眠るというのは、相手のことを心から信頼している証なんだそうです。出会ったばかりで、まだ僕のことを何も知らないはずのシュクレが、いきなりそのポーズをとった。これにはさすがに、笑ってしまいました。「繊細な子です」と聞かされて、そっと接しようと身構えていた僕の緊張は、シュクレのへそ天で、いっぺんに吹き飛びました。むしろ、こちらが拍子抜けするくらいの大物。この子は、きっと、どこへ行っても自分らしくいられる子なんだろうな。最初の出会いで、僕はそう確信しました。

会ったばかりの僕の前で、いきなりへそ天。
繊細どころか、これ以上ないくらいの大物っぷり。
その図太さに、僕はいっぺんで、この子のことが大好きになりました。
もしかしたら「繊細」というのは、それだけ気持ちが豊かで、人の心に敏感な子、という意味だったのかもしれません。だとしたら、なるほどなと、今は思います。


仕事中のシュクレは、どや顔の働き者

そんなマイペースなシュクレですが、名誉のために言っておきます。
仕事になると、きりっとした、立派な働き者なんです。

ハーネスを着けたとたん、シュクレの表情が変わります。
「さあ、お仕事の時間だ」と、スイッチが入る。
街を歩くときの集中力は、本当に頼もしい。

🔑 仕事中は、どや顔

ちゃんと僕を安全に導けたとき、シュクレは、どこか誇らしげな「どや顔」をしているように、僕には感じられます。
「どう、ぼく、ちゃんとできてるでしょ」と言わんばかりに。

段差を教えてくれたり、曲がり角で立ち止まってくれたり、障害物をよけてくれたり。
その一つひとつが、僕の安心を支えてくれています。
へそ天で寝ている、あのだらしない姿からは、想像もつかないくらいの真剣さです。

たとえば、初めて行く場所でも、シュクレは落ち着いて、僕を導いてくれます。人が多い駅の構内でも、車の音が響く道でも、シュクレは僕のペースに合わせて、ていねいに歩いてくれる。階段の前ではきちんと止まり、「ここに段差があるよ」と体で教えてくれる。その仕事ぶりを足元に感じるたびに、僕は、この子に出会えて本当によかったと、しみじみ思うんです。仕事中のシュクレは、甘えん坊の顔をすっかりしまい込んで、ひとりのプロフェッショナルとして、僕の隣を歩いてくれている。その姿は、頼もしくて、ちょっと誇らしくて、たまらなく愛おしいです。

このオンとオフの落差が、またたまらないんです。
仕事はきっちり、休むときはとことんゆるく。
メリハリの達人、それがシュクレです。
僕も、シュクレのこの切り替えの上手さは、見習いたいくらいです。


ハーネスを外すと、へそ天になる

仕事を終えて、ハーネスを外す。
すると、あのきりっとした働き者は、どこへやら。
一瞬で、ごろんと甘えん坊のシュクレに戻ります。

おなかを見せて、へそ天。
「なでて」と言わんばかりに、こちらにすり寄ってくる。
その切り替えの早さに、思わず笑ってしまいます。

この「へそ天」は、僕にとって、シュクレが安心してくれている証拠でもあります。
「中澤さんのそばは、安全で、心地いい場所だよ」と、体じゅうで言ってくれているようで、とても嬉しくなります。

盲導犬と暮らすというのは、ただ一緒に歩くことだけではありません。一日の大半を、同じ空間で、同じ時間を分け合って過ごす、生活そのものです。だからこそ、こうしてシュクレがリラックスしてくれている姿を見ると、心からほっとします。僕が無理をしていれば、きっとシュクレにも伝わってしまう。逆に、僕が落ち着いていれば、シュクレも安心してくれる。お互いの気持ちは、言葉がなくても、ちゃんと通い合っているんです。へそ天で寝ているシュクレを見るたびに、「ああ、この子と僕は、ちゃんと信じ合えているな」と感じられて、僕のほうこそ、安心をもらっています。

仕事中はどや顔、オフはへそ天。
このギャップこそが、シュクレという相棒の、最大の魅力です。

働くときと休むとき。その両方を、これほど素直に切り替えられるシュクレを見ていると、生きるのが少し上手になった気がしてきます。


講演中は、ぐっすり寝ている

さて、この記事のタイトルにもなっている話です。

僕は、年間50回前後、全国で講演をしています。
その講演の場にも、もちろんシュクレは一緒です。

では、講演中のシュクレが何をしているかというと——。
ぐっすり、寝ています。

これを話すと、たいてい、会場がどっと笑いに包まれます。一生懸命に話す僕の足元で、相棒はすやすやと夢の中。そのギャップが、なんともおかしいんですよね。でも、僕はこの「寝ているシュクレ」のことが、大好きなんです。

僕がステージで、熱を込めて、人生やトライアスロンの話をしている、その足元で。
シュクレは、すやすやと、気持ちよさそうに眠っているんです。

🔑 寝ているのも、立派な仕事

実はこれ、とても大切なことなんです。
盲導犬は、むやみに動き回らず、落ち着いてその場で待てることも、大事な役割の一つ。
会場でぐっすり眠れるのは、それだけシュクレが、その場を安心できる場所だと感じている証拠なんです。

講演を聞きに来てくださった方が、あとで、「シュクレちゃん、ずっと気持ちよさそうに寝てましたね」と笑って声をかけてくださることがあります。
そのたびに僕は、「はい、あいつは僕の話より、お昼寝のほうが大事みたいで」と返して、会場が温かい笑いに包まれます。

緊張しがちな講演の場が、シュクレの寝顔のおかげで、ふっとやわらかくなる。
寝ているだけなのに、ちゃんと場をなごませてくれている。
やっぱり、たいした相棒です。

考えてみれば、これはすごいことだと思うんです。知らない会場、たくさんの人、マイクから響く僕の声。そんな、犬にとっては落ち着かないかもしれない環境の中で、シュクレは安心しきって眠れる。それは、「中澤さんがそばにいるなら大丈夫」と、僕のことを信じてくれている証拠です。シュクレが僕を信じてくれているから、僕も安心して話に集中できる。お互いの信頼が、あの会場の空気を作っているのだと思うと、ステージの上で、ふと胸が熱くなることがあります。聞いてくださる方には、僕の言葉だけでなく、足元で眠る相棒との信頼関係まで、きっと伝わっているのだと思います。


ゆるさの裏にある、深い信頼

へそ天で寝て、講演中はぐっすり。
一見すると、ただのマイペースな犬に見えるかもしれません。
でも、そのゆるさの裏には、深い信頼があると、僕は思っています。

シュクレが安心して眠れるのは、僕のことを信じてくれているから。
僕がシュクレに身をあずけられるのは、シュクレの仕事ぶりを信じているから。
お互いに信じ合えているからこそ、あんなにリラックスした関係でいられるんです。

ゆるく見える関係ほど、実は、深い信頼で結ばれている。
シュクレと僕は、そういう相棒です。

気を張りつめてばかりでは、人も、犬も、長くは続きません。
抜くところは抜いて、頼るところは頼る。
そのほうが、長く、一緒に歩いていける。
シュクレのへそ天は、そんなことまで教えてくれている気がします。


あなたへ

もしあなたが今、「ちゃんとしなきゃ」と気を張りつめて、少し疲れているなら——。
たまには、シュクレのように、へそ天になってみてください。

もちろん、本当に道ばたで寝転がる、という意味ではありません。
心の中だけでも、おなかを見せて、力を抜く時間を持つ、ということです。

がんばるときは、どや顔でがんばる。
休むときは、とことんゆるむ。
そのメリハリが、あなたを、長く現役でいさせてくれます。

僕は、46歳になった今も、IRONMANのサブ11という目標に挑み続けています。長く挑戦を続けるコツは、実は、がんばり続けることではなく、上手に休むことなのだと、最近つくづく感じます。ずっと気を張りつめていたら、心も体も、いつか折れてしまう。だから、抜けるところは思いきり抜く。それができる人が、結局いちばん遠くまで行けるんです。シュクレは、それを毎日、当たり前のようにやってのけている。僕にとってシュクレは、相棒であると同時に、生き方のお手本でもあります。あの甘い名前の通り、シュクレは、僕の毎日に、ふっと甘くやわらかい時間を運んできてくれる存在です。

まじめにがんばる、あなたへ。
シュクレみたいに、たまにはへそ天で、心をゆるめてくださいね。
甘い名前の相棒からの、ちょっとした処方箋です。

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「視覚障害B2の生活」「IRONMAN サブ11挑戦」「1ミリの行動」「気合いより1ミリ」をテーマに、講演を続けています。学校・企業・自治体問わず、対応可能です。盲導犬シュクレも一緒に伺うことができます。

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最後まで読んでくれて、ありがとうございます

中澤の挑戦を、これからも見届けてもらえたら嬉しいです。日々の練習やレース、盲導犬シュクレとの暮らしを発信しています。

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