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📅 2026.08.19 | RYU NAKAZAWA
🌱 視覚障害

盲導犬を触ってもいいですか|ユーザーの本音の答え

⏱ 約8分で読めます(4,923字)

「わんちゃん、なでていい?」。きらきらした目で近づいてくる子どもに、「ごめんね、今はお仕事中だから」と答えるとき、僕の胸は少しだけ痛みます。

もしあなたが、盲導犬と歩く人を見かけて、どう接すればいいか迷ったことがあるなら——。

もしあなたが、「声をかけたら迷惑かな」と、やさしさをのみ込んだ経験があるなら——。

もしあなたが、盲導犬とユーザーの、本当のところを知りたいと思っているなら——。

この記事は、あなたのためのものです。

こんにちは。視覚障害B2クラスのパラトライアスリート・中澤 隆(なかざわ りゅう)です。盲導犬シュクレと一緒に歩きながら、IRONMAN(226km)のサブ11時間挑戦を続け、年間50回前後の講演で全国を回っています。27歳で緑内障がわかり、31歳で視覚障害者になり、それでも今も挑み続けている、46歳のおじさんです。

今日は、盲導犬ユーザーである僕が、よく聞かれる質問に、本音でお答えします。
それは、「盲導犬を触ってもいいですか?」という質問です。
答えを先に言うと、原則は「触らないでほしい」。
でも、その理由には、ちゃんとした、やさしい事情があるんです。

📖 この記事の目次
  1. 「触ってもいいですか?」と聞かれると
  2. まず伝えたい、その気持ちが嬉しいこと
  3. 仕事中は、声をかけない・触らない
  4. それは冷たさじゃなく、安全のため
  5. 盲導犬と歩く人を見かけたら
  6. やさしさは、ちゃんと届いています
  7. あなたへ

「触ってもいいですか?」と聞かれると

街を歩いていると、ときどき、声をかけていただくことがあります。

「かわいいワンちゃんですね」
「盲導犬ですか?」
「触ってもいいですか?」

声をかけてくださる方の表情は、たいてい、とてもやさしいです。シュクレに向けられるそのまなざしには、悪気なんて、これっぽっちもありません。だからこそ、その気持ちにきちんと向き合って、本当のことをお伝えしたい。そう思って、僕はこの記事を書いています。

シュクレは、人なつっこくて、愛らしい顔をしているので、思わず声をかけたくなる気持ちは、とてもよく分かります。
僕自身、シュクレの愛おしさは、誰よりも知っているつもりですから。一緒に暮らしている僕でさえ、毎日その顔を見るたびに「かわいいなあ」と思うのですから、街で初めて見かけた方が、つい声をかけたくなるのは、ごく自然なことだと思います。だからこそ、その気持ちを大切にしながら、正しい接し方をお伝えしたいんです。せっかくのやさしい気持ちが、すれ違いで終わってしまうのは、もったいないですから。

🔑 結論を先に

「触ってもいいですか?」への答えは、原則として「ごめんなさい、今は触らないでください」です。
でも、これは決して、あなたを拒んでいるわけではありません。
その理由を、これからていねいにお話しします。

「ダメ」とお伝えすると、なかには、少し寂しそうな顔をされる方もいます。
その表情を感じるたびに、僕は、「ちゃんと理由を伝えなきゃ」と思うんです。
冷たく断っているわけじゃ、決してないから。

特に、子どもたちは、シュクレに興味津々で近づいてきてくれます。「わんちゃん、なでていい?」と、きらきらした目で聞いてくれる。その純粋な気持ちに、「ごめんね、今はお仕事中だから」と答えるのは、正直、少し胸が痛みます。せっかく心を開いて声をかけてくれたのに、断ってしまうのですから。だからこそ僕は、ただ「ダメ」で終わらせず、「どうしてダメなのか」を、できるだけやさしく伝えるようにしています。理由が分かれば、子どもたちも「そっか、お仕事中なんだね」と、ちゃんと納得して、温かい目でシュクレを見守ってくれる。その瞬間が、僕はとても好きなんです。


まず伝えたい、その気持ちが嬉しいこと

理由をお話しする前に、どうしても、先に伝えたいことがあります。

それは、声をかけてくださる、その気持ちが、本当に嬉しい、ということです。

シュクレを「かわいい」と思ってくださること。
僕たちに関心を持ってくださること。
勇気を出して、声をかけてくださること。
その一つひとつが、僕にとっては、とてもありがたいことなんです。

断るのは心苦しい。
でも、その気持ちは、間違いなく、僕の心に温かく届いています。

だから、これから「触らないでほしい」とお伝えするのは、あなたのやさしさを否定するためでは、絶対にありません。
むしろ、そのやさしさに甘えて、本当のことをお伝えしたいんです。
このすれ違いをなくしたいから、僕はこうして文章にしているのだと思います。


仕事中は、声をかけない・触らない

盲導犬と接するときの、大切な原則があります。
それは、ハーネスを着けて仕事をしている間は、声をかけたり、触ったり、食べ物を見せたりしない、ということです。

盲導犬にとって、ハーネスを着けている時間は、集中してお仕事をしている時間です。
僕を安全に導くために、周りの状況に気を配り、神経を使ってくれています。
人間でいえば、車を運転している最中のようなものかもしれません。運転中に、急に話しかけられたり、肩を叩かれたりしたら、ひやっとしますよね。盲導犬のお仕事も、それと同じくらい、集中を必要とするものなんです。

そんなとき、外から声をかけられたり、なでられたりすると、どうなるでしょう。
シュクレの集中が、ふっと切れてしまうんです。

🔑 集中が切れると、何が起きるか

盲導犬の集中が切れると、段差や障害物への反応が、一瞬、遅れることがあります。
その一瞬が、僕にとっては、転倒や事故につながりかねない。
だからこそ、仕事中はそっと見守ってほしいんです。

これは、シュクレが悪いわけでも、声をかけた人が悪いわけでも、ありません。
ただ、お仕事中の盲導犬には、集中できる環境が必要だ、というだけのことなんです。
知らなければ、つい声をかけてしまう。だからこそ、知ってもらうことが大切だと思っています。

盲導犬は、とても賢くて、いろいろなことを我慢できるようにも訓練されています。でも、犬である以上、心がないわけではありません。大好きな食べ物を目の前に出されたり、やさしく名前を呼ばれたりすれば、気を引かれるのは当然です。それでも、お仕事中は、ぐっとこらえて、僕を導くことに集中してくれている。その姿を思うと、僕は、シュクレに余計な我慢をさせたくないんです。だから、周りの方には、「触らないで」というよりも、「シュクレが安心してお仕事に集中できるよう、見守ってあげてください」という気持ちで、お願いしています。シュクレを思う気持ちと、僕の安全を守りたい気持ちは、同じところから来ているんです。


それは冷たさじゃなく、安全のため

ここが、一番お伝えしたいところです。

僕が「触らないでください」とお願いするのは、冷たいからではありません。
シュクレと、僕の安全を守るため
なんです。

シュクレは、僕の目の代わりとなって、一緒に歩いてくれる、大切な相棒です。
そのシュクレが集中を保てるかどうかは、そのまま、僕の安全に直結します。

「ダメ」の裏には、「シュクレと僕を守りたい」という、切実な思いがあります。
それは、拒絶ではなく、お願いなんです。

もし、あなたが声をかけたことで、シュクレの集中が切れて、僕が転んでしまったら——。
きっと、声をかけてくださったあなたも、心を痛めてしまうと思います。
そんな悲しいことには、したくない。
だから、前もって、お願いしているんです。

「冷たい人だな」ではなく、「ああ、シュクレくんはお仕事中なんだな」と思っていただけたら、それだけで、僕はとても嬉しいです。

僕は、講演でも、この話をよくします。すると、終わったあとに、「知らなかった。今まで盲導犬に声をかけてしまっていたかもしれない」と、はっとした顔で話しかけてくださる方がいます。でも、それでいいんです。知らなかったことは、誰のせいでもありません。むしろ、こうして知ってくださる方が一人増えるたびに、街は、盲導犬とユーザーにとって、少しずつ歩きやすい場所になっていきます。だから僕は、断ることを、悪いことだとは思っていません。断ったその先で、「どうしてなのか」を伝え、分かってもらえたら、それは一つの、温かい出会いになるからです。


盲導犬と歩く人を見かけたら

では、盲導犬と歩く人を見かけたら、どうすればいいのか。
いくつか、お伝えさせてください。

まず、お仕事中の盲導犬には、そっと見守るのが一番のやさしさです。
声をかけず、触らず、食べ物を見せず、温かく見守る。
それだけで、十分すぎるくらいのやさしさです。

🔑 本当に助けが必要なときは

もし、ユーザーが困っている様子だったら、犬にではなく、人に声をかけてください。
「何かお手伝いしましょうか?」の一言は、とてもありがたいです。
そのときは、犬ではなく、僕に話しかけてもらえると、助かります。

そして、もし、どうしてもシュクレに触れたい、声をかけたいと思ってくださったら——。
まずは僕に、「触ってもいいですか?」と聞いてください。
状況によっては、ハーネスを外して休んでいるときなど、「どうぞ」とお応えできることもあります。

大切なのは、タイミングと、一声かけてくださること。
それさえあれば、僕たちは、いつだって、あなたとの出会いを歓迎しています。

盲導犬とユーザーは、街の中で、たくさんの人に支えられて歩いています。電車で席をゆずってくださる方、エレベーターのボタンを押してくださる方、道に迷っているときに声をかけてくださる方。その一つひとつの小さなやさしさが、僕たちの毎日を、ずっと歩きやすくしてくれています。だから僕は、「声をかけないでください」と言いたいわけでは、まったくないんです。むしろ、もっと声をかけてほしい。ただ、声をかける相手を、お仕事中の犬ではなく、僕にしてほしい。それだけのお願いなんです。人と人として、気軽に声をかけ合える。そんな街であってほしいと、心から願っています。


やさしさは、ちゃんと届いています

この記事で、一番伝えたかったのは、これです。

あなたのやさしさは、たとえ「触らないでください」とお断りしたときでも、ちゃんと、僕たちに届いています

盲導犬ユーザーは、声をかけられて、迷惑だなんて、思っていません。
むしろ、関心を持ってもらえること、気にかけてもらえることが、嬉しいんです。

ルールは、冷たさのためにあるんじゃない。
みんなが安心して、気持ちよく出会うために、あるんです。

正しい接し方を知ってもらえれば、やさしさは、もっとまっすぐに、盲導犬とユーザーに届きます。
そういう人がひとりでも増えてくれたら、僕たちは、もっと安心して、街を歩いていけます。
そしてそれは、巡り巡って、まだ見ぬ誰かの盲導犬とユーザーをも、守ることになります。


あなたへ

もしあなたが、これまで、盲導犬と歩く人を見て、「どうしたらいいんだろう」と迷っていたなら——。
もう、大丈夫です。

お仕事中は、そっと見守る。
困っていそうなら、犬ではなく人に声をかける。
触れたいときは、まずユーザーに一声かける。
それだけで、あなたは、最高にやさしい応援者です。

そして、もし街で僕とシュクレを見かけたら、心の中で、「いってらっしゃい」と思ってもらえたら——。
その温かい気持ちは、きっと、シュクレにも、僕にも、ちゃんと伝わります。

盲導犬への正しい接し方を知ることは、難しいことではありません。お仕事中はそっと見守る。困っている人がいたら、犬ではなく人に声をかける。たったこれだけのことを、ひとりでも多くの方が知ってくださったら、盲導犬とユーザーが安心して暮らせる街が、また一歩、近づきます。そして、それは盲導犬に限った話ではなく、目の見えない人、車いすの人、いろいろな事情を抱えた人みんなにとって、やさしい街につながっていくはずです。あなたが今日、この記事を読んでくださったこと。それ自体が、そのやさしい街づくりの、立派な一歩なんです。本当に、ありがとうございます。

やさしさを、のみ込まないでください。
届け方を知れば、あなたのその気持ちは、必ず、誰かの安心になります。
いつも、ありがとうございます。

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「視覚障害B2の生活」「IRONMAN サブ11挑戦」「1ミリの行動」「気合いより1ミリ」をテーマに、講演を続けています。学校・企業・自治体問わず、対応可能です。盲導犬シュクレも一緒に伺うことができます。

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最後まで読んでくれて、ありがとうございます

中澤の挑戦を、これからも見届けてもらえたら嬉しいです。日々の練習やレース、盲導犬シュクレとの暮らしを発信しています。

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RYU NAKAZAWA | 視覚障害B2 パラトライアスリート・プロ講演家
盲導犬シュクレと共に、1ミリの行動を続ける人