一週間の予定を組むとき、僕がいちばん最初にカレンダーへ置くもの。それは、スイムでもバイクでもランでもなく、「休む日」です。練習は、その休みのまわりに組んでいきます。
もしあなたが、調子のいい日はやれるのに、調子の悪い日になると、ぱたっと止まってしまうなら——。
もしあなたが、「やる気のある日」だけ頑張って、結局なかなか積み上がらないなら——。
もしあなたが、続けることそのものに、いつも悩んでいるなら——。
この記事は、あなたのためのものです。
こんにちは。視覚障害B2クラスのパラトライアスリート・中澤 隆(なかざわ りゅう)です。相棒は盲導犬のシュクレ。僕はIRONMAN(226km)のサブ11時間挑戦を続けながら、年に50回ほど講演でお話をしています。
今日は、僕の一週間の練習リズムについて、お話しします。スイム・バイク・ランの3つを、どう散らして、どう回しているのか。そして、見えない僕がガイドと予定を合わせながら、「強い日も弱い日も回し続ける」ために、何を大事にしているのか。続けることに悩むあなたに、きっと役立つ話だと思います。
僕は、練習を「今日やる気が出たかどうか」では組み立てません。
一週間という単位で、あらかじめリズムを決めておきます。
なぜリズムなのか。理由はシンプルです。その日その日の気分で決めていると、調子のいい日はやりすぎて、調子の悪い日はまったくやらない、という極端なことになるからです。それでは、体は安定して強くなっていきません。
一週間のリズムを先に決めておけば、「今日はこの曜日だから、これをやる」と、迷わず動けます。見えにくい僕にとって、判断は少ないほどいい。何をやるか毎回考えなくていいリズムは、それだけで大きな助けになります。
僕は、その日の気分で「今日はどうしようかな」と考え出すと、ずるずると迷って、結局動けなくなってしまうタイプです。やるか、やらないか。何を、どれくらいやるか。それを毎朝ゼロから決めるのは、思っている以上に、心の力を使います。
でも、一週間のリズムが先に決まっていれば、その「迷い」がまるごと消える。考えなくても、体が勝手に「今日はこれ」と分かっている。この状態を作ってしまうことが、続けるうえで、何より効くんです。
毎日「今日は何をやろう」と考えるのは、思っているより消耗します。その消耗が積もると、続かなくなる。
だから、一週間のリズムを先に決めて、考える手間そのものを消す。決めてしまえば、あとは乗るだけ。これが、長く続けるための土台になります。
トライアスロンは、スイム・バイク・ランの3種目です。この3つを、一週間の中でバランスよく散らすのが、僕の基本の考え方です。
同じ種目ばかりを続けると、使う筋肉や関節に負担がかたよります。でも、種目を散らせば、体の別の部分を使いながら、前の種目で疲れたところを休ませることができる。いわば、種目を変えること自体が、ひとつの回復にもなるんです。
たとえば、前の日にしっかり走った次の日は、脚への衝撃が少ないスイムにする。そうやって、体の同じ場所を続けて痛めつけないように、種目の並びまで考えて組んでいきます。
朝の早い時間に動く日もあれば、別の時間帯にしっかり時間を取る日もあります。一週間を見渡して、スイムの日、バイクの日、ランの日、そして体を休める日を、無理のないように配置していく。
大事なのは、どれかひとつに偏らないこと。3種目をまんべんなく回すことが、トライアスロンという競技の土台になります。
具体的にどの場所で泳ぎ、どこを走るかは、ここでは書きませんが、いずれも、僕にとって慣れた環境で、ガイドと一緒に取り組んでいます。環境が決まっていることも、リズムを保つうえで大きな支えです。
ここが、僕の練習リズムの、いちばん大事なところです。
僕は、一人では泳げないし、走れません。スイムとランでは伴走ロープを、バイクでは2人乗りのタンデム自転車を使い、必ずガイドと一緒に進みます。
つまり、僕の練習は、僕一人の都合だけでは決められないということです。ガイドにも、それぞれの生活や予定があります。だから僕の一週間のリズムは、ガイドの予定と合わせて作っていきます。
「この曜日のこの時間なら、一緒に動ける」。そうやって、お互いの時間をすり合わせて、練習の枠を決めていく。これは手間のように見えて、じつはとても大切なプロセスです。
相手の時間をいただいて、一緒に進む。その感謝があるから、僕は決めた枠を、簡単には飛ばさなくなります。
ガイドは、一人ではありません。種目によって、曜日によって、一緒に動いてくれる人が変わることもあります。それぞれのガイドに、仕事や家族との時間がある。
その一人ひとりの予定を思い浮かべながら、「この人とは、ここ」「この種目は、この時間に」と、パズルのように一週間を組み上げていく。僕の練習リズムは、僕一人のものではなくて、支えてくれる人たちとの、共同作業でできているんです。そう思うと、一回いっかいの練習が、もっとありがたく感じられます。
一人で決めた予定は、自分の都合でいくらでも崩せます。でも、ガイドと約束した枠は、そうはいかない。相手がいるからこそ、その枠は確かな約束になります。
見えない僕にとって、ガイドとの約束は、練習を続けるためのいちばん強い支えなんです。一人じゃないからこそ、続けられる。
一週間のリズムを組むとき、僕がいちばん最初に置くもの。
それは、練習の日ではありません。休む日です。
「休む日を先に決める」と言うと、意外に思われることがあります。ふつうは、練習の予定を先に埋めて、余ったところで休もう、と考えますよね。
でも、その順番だと、忙しくなったときに、いちばん先に削られるのが「休み」になってしまう。そして、休まずに走り続けて、いつか体を壊す。僕は、そうはしたくないんです。
持久系のスポーツでは、回復こそが競技力です。練習で体に刺激を入れて、休んでいるあいだに、体は強くなっていく。つまり、休む日は「何もしない日」ではなくて、「体が強くなるための、大事な仕事の日」なんです。
だから僕は、休む日を、練習と同じくらい大切な予定として、先にリズムの中に組み込みます。
休みを「予定が余ったらとるもの」にしてしまうと、忙しい時ほど、まっ先に消えてしまいます。
だから、休む日は最初に置く。練習を、休みのまわりに組んでいく。この順番にするだけで、無理なく長く続けられる一週間になります。休むことを、ちゃんと予定にする。これが、回し続けるための土台です。
調子のいい日。体が軽くて、いくらでもやれそうな日があります。
でも、そういう日こそ、僕は無理に伸ばさないようにしています。
調子がいいからといって、その日だけ大きくやりすぎると、次の日に疲れが残って、リズムそのものが崩れてしまうからです。一日だけ頑張って、次の三日が動けなくなる。これでは、積み上がりません。
強い日は、決めたリズムを、気持ちよくこなす日。それで十分です。
「もっとやれたのに」という余力を、少しだけ残しておく。その余力が、次の日も気持ちよく動き出すための、大事な燃料になります。
逆に、調子の悪い日。体が重くて、気持ちものらない日。
そういう日でも、僕はリズムを完全には止めません。
もちろん、体調が悪い時や、回復が必要な時は、しっかり休みます。休むことも、リズムの一部です。
でも、「なんとなく気がのらない」くらいの弱い日なら、量を思いきり減らしてでも、少しだけ体を動かしておく。ゼロにはしないんです。
なぜなら、一度ゼロにすると、次にまた動き出すのが、うんと重くなってしまうからです。小さくても続けていれば、リズムは途切れません。
「1ミリでもいいから、回し続ける」。これが、弱い日を乗り越える、僕のやり方です。
思い出すのは、トライアスロンを始めたばかりの頃のことです。当時の僕は、25メートルも泳げず、1キロ走れば膝が痛くなる、そんなところからのスタートでした。いきなり大きなことは、何ひとつできなかった。
それでも、できる範囲のことを、少しずつ、毎日続けた。ゼロにはしなかった。その小さな積み重ねが、いつのまにか、僕をIRONMANのスタートラインまで連れてきてくれました。弱い日に「1ミリでも回す」ことの大切さを、僕は、自分の体で知っているんです。
弱い日に大事なのは、頑張ることじゃありません。ゼロにしないことです。量を10分の1に減らしてでも、リズムだけは続けておく。
そうすれば、調子が戻ったとき、またすっと元のペースに戻れます。止めなければ、立て直す必要もない。これが、回し続ける仕組みの肝です。
一週間のリズムを回し続けて、僕がたどり着いた実感は、これです。
積み上げは、その日の調子に左右されない。
大きな力は、調子のいい日に一気に作られるものではありません。強い日も、弱い日も、ふつうの日も、リズムを回し続けた、その総量として作られていきます。
だから、一日一日の出来に、いちいち一喜一憂しなくていい。大事なのは、リズムを止めずに、回し続けることだけです。
調子の波に一喜一憂していると、心がすり減って、続けること自体がいやになってしまいます。「今日は良かった」「今日はダメだった」と毎日採点していたら、ダメだった日に、心が折れてしまう。
でも、「リズムを回せたかどうか」だけを見ていれば、出来の良し悪しに、振り回されずにすみます。一日の調子は、天気みたいなもの。晴れの日も、雨の日もある。それでも、リズムという傘をさして、淡々と歩き続ける。その歩き続けた距離だけが、ちゃんと自分の力になっていきます。
ここでも僕が支えにしているのが、行動ベースという考え方です。タイムや調子という結果で毎日を採点すると、思うようにいかない日に心が折れて、続かなくなる。
そうではなく、「決めたリズムを、回せたかどうか」という行動で見る。回せていれば、その日は合格。結果は、3か月に一度くらい、まとめて振り返れば十分です。
強い日も、弱い日も、リズムを回し続ける。積み上げは、調子じゃなく、続けた総量で決まる。
もしあなたが、調子のいい日だけ頑張って、なかなか積み上がらずに悩んでいるなら。
どうか、その日の気分で決めるのを、いったんやめてみてください。かわりに、一週間のリズムを、先に決めてしまうんです。
そして、強い日は無理に伸ばさず、弱い日もゼロにしない。一人で抱え込まず、できれば誰かと約束して、一緒に回していく。
そうやって続けたものは、調子の波に関係なく、確実に積み上がっていきます。
僕は、一人では泳げないし、走れません。でも、ガイドに支えられ、繋がる輪の中で、一週間のリズムを回し続けています。
その積み重ねが、46歳の今も、僕を次の挑戦へと連れていってくれます。
大切なのは、毎日を百点にすることではありません。六十点の日も、四十点の日も、リズムさえ止めずに回し続けていれば、その点数は、一週間、一か月という時間の中で、ちゃんと足し算されていきます。
完璧な一日を、たまに作ることより、そこそこの一日を、止めずに続けることのほうが、ずっと遠くまで連れていってくれる。これは、46歳の今も挑戦を続けている僕が、心の底から、そう感じていることです。
調子のいい日を待たなくて大丈夫です。
弱い日も回し続けられる仕組みさえあれば、あなたの一週間は、ちゃんと前に進んでいきます。一緒に、止めずに回し続けていきましょう。
「視覚障害B2の生活」「IRONMAN サブ11挑戦」「1ミリの行動」「気合いより1ミリ」をテーマに、講演を続けています。学校・企業・自治体問わず、対応可能です。盲導犬シュクレも一緒に伺うことができます。
📧 つなひろワールドへお問い合わせ中澤の挑戦を、これからも見届けてもらえたら嬉しいです。日々の練習やレース、盲導犬シュクレとの暮らしを発信しています。
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RYU NAKAZAWA | 視覚障害B2 パラトライアスリート・プロ講演家
盲導犬シュクレと共に、1ミリの行動を続ける人