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📅 2026.09.04 | RYU NAKAZAWA
💪 挑戦

空腹じゃなく時計で食べる|226kmを完走する補給の考え方・視覚障害B2のIRONMAN

⏱ 約8分で読めます(4,948字)

まだお腹は空いていない。「全然平気だな」と思っている。それでも、決めた時間が来たら、僕は口に入れます。空腹を感じてからでは、もう遅いからです。

もしあなたが、「お腹が空いてから食べればいい」と思って、長い運動の途中でバテた経験があるなら——。

もしあなたが、なぜトライアスリートが時計を見ながら食べているのか、不思議に思ったことがあるなら——。

もしあなたが、見えない世界で226kmを走り抜く人間の「食べ方の考え方」を知りたいなら——。

この記事は、あなたのためのものです。

こんにちは。視覚障害B2クラスのパラトライアスリート・中澤 隆(なかざわ りゅう)です。盲導犬シュクレと一緒に暮らしながら、IRONMAN(226km)のサブ11時間挑戦を続けています。年間50回前後、学校や企業で講演にも立たせてもらっています。

今日は、IRONMAN226kmを完走するための補給について、なかでも「なぜ、お腹ではなく時計で食べるのか」という考え方をお話しします。具体的に何をどれだけ食べるかは別の記事に書きました。今日はもっと根っこの話。これは単なるレースのテクニックではなく、長い時間、自分の体と付き合っていくための「考え方」そのものです。お腹でなく、時計で食べる。この一行に、長い距離を支え続ける秘密が詰まっています。

📖 この記事の目次
  1. 空腹を感じたときには、もう遅い
  2. だから、お腹でなく「時計」で食べる
  3. 見えない僕は、時計を「チラ見」できない
  4. 補給のタイミングを、ガイドと共有する
  5. 「時計で食べる」は、体を信じる技術
  6. あなたの毎日にも「時計で食べる」考え方を

空腹を感じたときには、もう遅い

普段の生活では、お腹が空いたら食べる。それで何も問題ありません。でも、226kmを15時間前後かけて動き続けるレースでは、その当たり前が通用しません。

理由はシンプルです。体が「お腹が空いた」と感じた時点で、エネルギーはもう底をつきかけているから。空腹は、ガソリンランプが点滅し始めた合図のようなもの。そこから補給しても、回復が間に合わず、体はガクンと止まってしまいます。

口に入れたものが、エネルギーとして体に届くまでには、時間がかかります。食べた瞬間に元気になるわけではない。胃で消化されて、吸収されて、ようやく力になる。そのタイムラグがあるからこそ、「空いてから」では間に合わないんです。空腹を感じてから食べても、エネルギーが届く頃には、もっと深いエネルギー切れに落ちている。食べてから効くまでの時間を見越して、先に入れておく。これが、長い距離の補給の鉄則です。

長い距離で一度エネルギーが切れると、立て直すのはとても難しい。頭がぼーっとして、足に力が入らなくなる。一度その状態に落ちてしまうと、いくら食べても、すぐには戻ってこない。坂を転がり落ちてから登り直すようなもので、ものすごく時間とエネルギーを使います。だから僕は、空腹を「待たない」と決めています。空腹が来る前に、先回りして入れておく。これが、お腹で食べることをやめた一番の理由です。

考えてみれば、これは長い距離だからこそ起きる問題です。短い運動なら、多少エネルギーが足りなくても、ゴールまで気合いで持つかもしれない。でも、15時間前後も動き続けるレースでは、気合いではどうにもなりません。体は正直で、燃料が切れれば止まる。気合いで動く時間より、燃料で動く時間のほうが、はるかに長い。だからこそ、補給を感覚任せにできないんです。

空腹は、補給の「合図」じゃない。空腹は、補給が遅れた「警告」だ。

だから、お腹でなく「時計」で食べる

空腹を待たないなら、何をきっかけに食べればいいのか。答えが「時計」です。

お腹の感覚に関係なく、決まった時間が来たら口に入れる。まだ空いていなくても、むしろ「全然平気だな」と思っていても、時間が来たら食べる。感覚ではなく、時間というルールで、機械的に補給していく。お腹でなく、時計で食べる。これが僕の補給の背骨です。

「お腹が空いていないのに食べるの?」と思うかもしれません。そうなんです。長い距離では、空いてから食べたら必ず遅れる。だから空いていないうちに、淡々と入れておく。感覚は当てにならない。だから、感覚の代わりに時計を信じる。それだけのことです。

慣れるまでは、空いていないのに食べるのは、少し気持ち悪く感じます。でも、これは練習で体に覚え込ませていくもの。本番でいきなりやるのではなく、普段の練習から時計で食べておく。段取りは、練習でなじませておくから、本番で効く。

大事なのは、「先回り」という発想です。問題が起きてから対処するのではなく、起きる前に手を打つ。空腹を感じてから食べるのは、問題が起きてからの対処。時間どおりに食べるのは、問題が起きる前の予防です。長い距離では、この差が、完走できるかどうかを分けます。後手に回ったら、もう追いつけない。だから、いつも一歩先に。

🔑 感覚ではなく、ルールで食べる

「お腹が空いたら」という感覚は、長い距離では遅すぎる物差しです。「時間が来たら」というルールに置き換えると、補給は気合いの問題から、ただの段取りに変わります。気合いより段取り。補給こそ、その典型です。


見えない僕は、時計を「チラ見」できない

ここで、視覚障害B2の僕ならではの事情が出てきます。「時計で食べる」と言っても、僕は走りながら時計をチラッと見る、ということができません。

ここで「じゃあ、時計で食べるのは無理だ」と諦めてしまったら、僕は長い距離を最後まで走れません。できない理由を数えるのは簡単です。でも、それでは前に進めない。大事なのは、「どうすれば、見えなくても時計で食べられるか」と問い直すこと。できない理由ではなく、できる方法を探す。その問いの立て方が、見えない世界を生きる上で、僕の一番の武器になっています。

晴れている選手なら、腕の時計に視線を落とせば、すぐに経過時間がわかる。でも僕には、その「チラ見」が難しい。じゃあどうするか。ここで、僕の合言葉「ピンチはチャンス、カギは工夫」の出番です。

見えないという制約があるからこそ、僕は補給を「自分一人の感覚」に頼るのをやめました。時間の管理を、自分の感覚の外に置く。具体的には、ガイドと一緒に時間を管理する仕組みにしています。見えないことが、結果的に「一人で抱え込まない補給」につながった。これも一つの工夫です。

晴れている選手なら、自分で時計を見て、自分で補給を管理できる。それはそれで便利です。でも、自分一人で全部をやろうとすると、集中が切れたときに、うっかり補給を忘れてしまうこともある。僕の場合は、見えないからこそ最初から「二人でやる」前提に立てた。制約があったから、一人で抱えないという、より強い仕組みにたどり着けた。これも、ピンチがチャンスに変わった一つの形だと思っています。


補給のタイミングを、ガイドと共有する

僕のレースは、ガイドと二人で走ります。スイムとランはロープでつながり、バイクはタンデムで前後に座る。その相棒と、補給のタイミングを事前に共有しておくのが、僕の補給の要です。

「このくらいの時間が来たら、声をかけてください」とお願いしておく。すると、僕が自分で時計を見られなくても、ガイドの声が時計の代わりになってくれる。「そろそろ補給ですよ」というひと声で、僕は時間どおりに口に入れられます。

大事なのは、これをレース前にきちんと言葉にして決めておくこと。当日いきなり「いい感じに声かけてください」では、お互いに迷ってしまう。どのくらいの間隔で、どんな言葉で合図するか。二人で先に決めておくから、本番で迷いがなくなります。

レース中は、苦しくなると、つい補給がおろそかになります。「今は無理、あとで」と先延ばししたくなる。でも、そういう苦しいときこそ、補給が必要なときです。そこで、ガイドの声が効いてきます。僕が「あとで」と思っても、ガイドが時間どおりに「補給ですよ」と言ってくれる。自分の甘えを、ガイドの声が止めてくれる。二人で管理するというのは、こういう支え合いでもあるんです。

僕の補給は、僕一人の仕事じゃない。時計を読むガイドと、口に入れる僕の、二人の共同作業だ。

「時計で食べる」は、体を信じる技術

時計で食べる、と聞くと、なんだか冷たくて機械的に感じるかもしれません。でも僕は、これはむしろ自分の体を大切にする技術だと思っています。

お腹が空いてから慌てて食べるのは、体を追い込んでから手当てするのと同じ。時間どおりに先回りして入れるのは、体が苦しくなる前に支えてあげること。どちらが体に優しいかは、考えるまでもありません。

逆に、調子が悪いときも、補給を抜いてはいけません。「気持ち悪いから、今は食べたくない」と思っても、そういうときこそ、体は燃料を求めています。むしろ、調子が悪いのは、補給が足りていないサインかもしれない。だから、つらいときほど、少しずつでも口に入れる。食べたくないときに食べるのが、一番難しくて、一番大事。そこを乗り越えられるかどうかが、長い距離の分かれ目になります。

そして、決めた時間に淡々と補給を続けるには、自分の「今の調子」に振り回されない強さがいります。調子がいいと「まだいらない」と思ってしまう。調子が悪いと「食べたくない」と思ってしまう。その気分を脇に置いて、決めたルールを守る。気分ではなく、決めたことを信じる。それが、長い距離を支える土台になります。

調子がいいときほど、実は気をつけないといけません。「今日は調子がいいから、補給は少し抜いても大丈夫」と思って飛ばすと、数十分後に、そのツケが一気に来る。調子がいいのは、今ちゃんと燃料があるからであって、補給を抜いていい理由にはなりません。だから、調子がいい日こそ、決めた通りに食べる。うまくいっているときほど、段取りを崩さない。これは、補給にかぎらず、何にでも言えることだと思います。

🔑 1ミリの補給を、時間どおりに積む

一回の補給は、ほんの少しのエネルギーです。でも、それを時間どおりに何度も積み重ねていくと、226kmを動き続けるだけの力になる。大きな結果は、小さな1ミリを、決めたリズムで積んだ先にあります。


あなたの毎日にも「時計で食べる」考え方を

この「お腹でなく時計で」という考え方は、レースの外でもきっと役に立ちます。

たとえば、仕事。「疲れたら休もう」と思っていると、疲れを感じたときにはもうへとへとです。でも、「1時間ごとに少し休む」と時間で決めておけば、疲れ切る前に回復できる。限界を感じてから動くのではなく、感じる前に手を打つ。考え方は補給とまったく同じです。

そして、もし可能なら、その「先回り」を、誰かと一緒にやってみてください。僕がガイドに「補給の時間ですよ」と声をかけてもらうように、家族や仲間と「この時間になったら休もうね」と決めておく。自分一人だと、つい「もう少し」と無理をしてしまう。でも、声をかけてくれる人がいれば、自分の甘えにブレーキがかかります。先回りの補給は、一人で抱えなくていい。支えてくれる人と一緒なら、もっと長く、もっと遠くまで進めます。

水分も、睡眠も、人とのつながりも、同じことが言えます。喉がカラカラになる前に飲む。眠くて倒れる前に休む。感覚が「もう限界」と言ってからでは、たいてい遅い。だから、感覚の代わりにルールを決めて、先回りしてあげる。

心のケアも、同じだと僕は思っています。落ち込んでから立て直すのは大変ですが、落ち込む前に、決まったリズムで好きなことをしたり、人と話したりしておくと、心は底まで落ちにくい。「つらくなったらやる」ではなく「決めた時間にやる」。体の補給で学んだことは、そのまま心の補給にも使えます。

🔑 限界の手前で、手を打つ人になる

倒れてから立て直すのは、本当に大変です。でも、倒れる手前で小さく手を打てば、あなたは進み続けられる。空腹の手前で食べる。疲れの手前で休む。心が折れる手前で、人とつながる。先回りできる人は、遠くまで行ける人です。

ピンチはチャンス、カギは工夫。そして、長く動き続けるための一番の工夫が、お腹でなく、時計で食べること。あなたの毎日にも、ぜひ「先回りの補給」を取り入れてみてください。今日も、繋がる輪の中で、一緒に1ミリ進みましょう。


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「視覚障害B2の生活」「IRONMAN サブ11挑戦」「1ミリの行動」「気合いより1ミリ」をテーマに、講演を続けています。学校・企業・自治体問わず、対応可能です。盲導犬シュクレも一緒に伺うことができます。

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中澤の挑戦を、これからも見届けてもらえたら嬉しいです。日々の練習やレース、盲導犬シュクレとの暮らしを発信しています。

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RYU NAKAZAWA | 視覚障害B2 パラトライアスリート・プロ講演家
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