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📅 2026.09.23 | RYU NAKAZAWA
📖 物語・哲学

河原さんという人|IRONMAN226kmを共に走ったガイド

⏱ 約8分で読めます(4,971字)

「この先、右にカーブ」「あと少しで給水」「いいペースだよ」。路面のひび割れもゴールゲートも見えない僕にとって、すぐ隣で響き続けたその声が、13時間14分17秒のあいだの世界そのものでした。

もしあなたが、視覚障害のあるアスリートは「どうやって226kmのIRONMANを走り切っているんだろう」と不思議に思ったことがあるなら——。

もしあなたが、誰かと一緒に大きな目標へ挑む立場にいて、「本当に信頼できるパートナーって、どんな人だろう」と考えたことがあるなら——。

もしあなたが、「自分の力だけではどうにもならない」と感じる場面にいて、支えてくれる人の存在について、もう一度ちゃんと考えてみたいなら——。

この記事は、あなたのためのものです。

こんにちは。視覚障害B2クラスのパラトライアスリート・中澤 隆(なかざわ りゅう)です。盲導犬シュクレと暮らしながら、IRONMAN(スイム3.8km・バイク180km・ラン42.195km、合計226km)のサブ11時間を目指して挑み続けています。年間50回前後、全国でお話をさせてもらう講演活動も続けています。

今日は、僕が226kmを走り切るために、隣にいてくれた一人の人のことを書きます。ガイドの河原さん。2024年と2025年のIRONMAN、僕の「目」になってくれた人です。具体的な思い出話を盛るのではなく、僕が河原さんという人をどう感じ、どんな信頼で結ばれているのか——僕の言葉で、まっすぐお伝えします。

📖 この記事の目次
  1. 「ガイド」って、何をする人だと思いますか
  2. 13時間14分17秒を、一緒に走った人
  3. 「目になってくれる人」という言葉の重さ
  4. 信頼は、言葉にしなくても分かる距離まで育つ
  5. 声を預けるとは、命を預けるということ
  6. 後ろ側にいる人まで、ちゃんと見たい
  7. あなたの隣にも、きっと「河原さん」がいる

「ガイド」って、何をする人だと思いますか

視覚障害のあるアスリートには、ガイドがつきます。この言葉だけ聞くと、「見えない人を引っ張ってあげる人」「介助してくれる人」というイメージを持たれることが多いです。でも、僕にとってのガイドは、まったく違います。講演でこの話をすると、多くの方が「えっ、そうなんですか」と驚かれます。それくらい、ガイドという存在は、世間のイメージと実際とで、大きくかけ離れているんです。

ガイドは、目の見える人が、僕と一緒にゴールを目指してくれるパートナーです。スイムでは伴泳ロープ1本で繋がり、バイクではタンデム自転車に前後で乗り、ランでは1本のロープを握って横に並んで走る。ただ前を歩いて道案内をするのではありません。今どんな路面なのか、この先に何があるのか、あと何キロなのか——状況を声で伝えながら、ペース配分や安全を一緒に判断してくれる存在です。

🤝 ガイドの定義

ガイドは「引っ張る人」じゃない。
僕と同じ方向を向いて、同じゴールを目指す人

見えない僕が、相手を信じて全力を出せるのは、相手が僕の目になってくれているから。だから、対等なチームなんです。

河原さんは、その「パートナー」を、226kmという気の遠くなる距離のあいだ、ずっと務めてくれた人です。スイムの水の中でも、バイクで風を切るあいだも、股関節が痛くなって坂道を歩いた終盤のランでも。僕が前に進むその全部の時間、河原さんの声が、すぐそばにありました。

226kmというのは、本当に長い道のりです。途中で何度も、心が折れそうになる瞬間がやってきます。体は限界に近づき、頭は朦朧として、「もう止まりたい」という声が、自分の中から聞こえてくる。そんなとき、すぐ隣に河原さんの声があるというのは、言葉にできないほど心強いことなんです。一人だったら、きっと止まっていた。でも、隣に信じられる人がいると、もう一歩、足が出る。ガイドの存在は、体を支えるだけでなく、心を支えてくれる。僕はそれを、河原さんと走るたびに実感しています。


13時間14分17秒を、一緒に走った人

2024年のIRONMANジャパン みなみ北海道。僕はこの大会を、13時間14分17秒、PCクラスで3位という結果で走り切りました。スイム1時間20分、バイク5時間47分、ラン5時間50分。海を泳ぎ、タンデム自転車で180kmを漕ぎ、最後は42.195kmを走る。健常のアスリートでも過酷なこの距離を、僕は河原さんと二人で、文字どおり始まりから終わりまで一緒に進みました。

タンデム自転車では、前に河原さん、後ろに僕が乗ります。バイクの180kmは、僕にとって一番ペースを稼げるパートだけれど、同時に一番「相手を信じる」ことが試されるパートでもあります。なぜなら、ハンドルを握って進む方向を決めるのは、前に乗る河原さんだからです。僕は後ろで、河原さんが選んだラインを信じて、ただ全力でペダルを回す。下り坂のスピードも、カーブの角度も、僕には見えません。それでも怖くないのは、前に河原さんがいるからです。

13時間14分17秒という時間は、
僕一人のタイムじゃない。
河原さんと二人で作った、僕たちのタイムです。

この数字を見るたびに、僕はゴールの瞬間より前の、長い長い13時間のことを思い出します。あの時間ずっと、すぐ隣で声をかけ続けてくれた人がいた。それがどれだけ心強いことか、走った者にしか分からないかもしれません。でも、これだけは伝えたい。あのタイムは、支えられて出せたタイムなんです。


「目になってくれる人」という言葉の重さ

僕はよく、ガイドのことを「僕の目になってくれる人」と言います。これは比喩のようでいて、本当にそのままの意味です。

レースの最中、僕には路面のひび割れも、前を走る選手も、給水所の場所も、ゴールゲートも見えません。その全部を、河原さんが声にして僕に届けてくれる。「この先、右にカーブ」「あと少しで給水」「いいペースだよ」。その一言ひとことが、僕にとっては世界そのものになります。河原さんが見ている景色が、声を通して、僕の中で景色になる。だから「目になってくれる」なんです。

考えてみてください。自分の目を、誰かに預けるということを。それは、相手を心から信じていないと、絶対にできないことです。少しでも疑っていたら、足はすくむし、ペダルは回せない。僕が226kmを全力で走れるのは、河原さんを1ミリも疑っていないからです。この信頼は、一日では生まれません。一緒に過ごした時間が、少しずつ積み上げてくれたものです。

🔑 ピンチはチャンス、カギは工夫

見えないことは、確かにピンチです。
でも、「目を貸してくれる人」と繋がれたとき、それはチャンスに変わる。

自分だけでは見えない景色も、二人なら見られる。これも一つの「工夫」だと、僕は思っています。


信頼は、言葉にしなくても分かる距離まで育つ

長く一緒に走っていると、だんだん「言葉にしなくても伝わる」瞬間が増えてきます。ロープの引き方ひとつ、息づかいひとつで、相手が今どんな状態かが分かるようになる。河原さんとのあいだにも、そういう言葉の手前の信頼が、少しずつ育っていきました。

これは、僕が一方的に助けてもらっているという話ではありません。河原さんも、僕という人間を、僕の走り方を、僕の癖を、時間をかけて理解してくれた。お互いがお互いを知っていく。その積み重ねの先に、226kmを任せ合える関係があります。助けてもらうことは、弱さではありません。一緒にゴールを目指す、対等なチームの形です。僕はこのことを、ガイドと走るようになって、何年もかけて心の底から理解しました。

かつての僕は、誰かに助けてもらうことが、情けなくて仕方ありませんでした。視覚障害者になって、できないことが一つひとつ増えていったとき、誰かの手を借りるたびに、心のどこかが痛みました。トライアスロンを始めたばかりの頃も、「助けてもらう側」になる自分が悔しくて、夜にひとり唇を噛んだこともあります。でも今は違います。河原さんのような人と繋がって、同じゴールを目指せること——それ自体が、僕の人生の宝物だと、心から思えるようになりました。悔しさは、いつのまにか、感謝に変わっていたんです。


声を預けるとは、命を預けるということ

もう少しだけ、踏み込んで書かせてください。タンデム自転車で時速何十キロも出る下り坂を、僕は前に乗る河原さんの判断だけを頼りに駆け下ります。スイムでは、伴走ロープ1本だけで繋がって、広い水面の中を進みます。もし河原さんの声が一瞬でも途切れたら、もし判断が一つでも狂ったら、それは大きな事故に繋がりかねません。つまり僕は、レースのあいだじゅう、河原さんに自分の安全を——大げさに言えば、命を——預けているんです。

これは、ものすごいことだと思いませんか。出会って間もない相手に、こんなことはできません。何度も一緒に練習し、何度も声を交わし、何度も「この人なら大丈夫だ」と確かめてきた時間があるからこそ、預けられる。信頼とは、時間でできている。河原さんと積み上げてきた一つひとつの時間が、226kmを任せ合える今日の僕たちを作りました。だから僕は、結果のタイムそのものより、そこに至るまでの河原さんとの時間を、何より大切に思っています。

🤝 信頼は、時間でできている

命を預けられる相手は、ある日突然できるわけじゃない。
何度も声を交わし、何度も確かめた時間が、信頼を育てる

僕と河原さんのあいだにあるのは、積み重ねた時間そのものです。


後ろ側にいる人まで、ちゃんと見たい

僕が大切にしている考え方のひとつに、「後ろ側の人まで理解する」というものがあります。河原さんがガイドとして僕の隣に立ってくれているとき、その河原さんを送り出してくれている人たちが、必ずいます。家族や、職場や、河原さんを支えている周りの人たち。

河原さんが僕のために時間を使ってくれるということは、その後ろにいる人たちも、間接的に僕の挑戦を支えてくれているということです。だから僕の感謝は、河原さん一人にではなく、その後ろの輪ごとに向けたい。一人の人を大切にするということは、その人の背景まで含めて大切にすることだと、僕は思っています。

僕が走れるのは、ガイド一人の力じゃない。
その人を支える人たちの理解があるから。
だから感謝は、輪ごと向けたい。

河原さん、という一人の名前の向こうに、たくさんの人の支えがある。その全部に支えられて、僕は226kmを走っています。これは決して、僕一人の挑戦ではないんです。繋がりの輪の中で、僕は前に進んでいます。


あなたの隣にも、きっと「河原さん」がいる

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。最後に、あなたに伝えたいことがあります。

大きな目標に挑むとき、人はつい「全部自分でやらなきゃ」と思い込みがちです。かつての僕がそうでした。でも、本当に大きなゴールほど、自分の力だけではたどり着けない。そこには必ず、隣で支えてくれる誰かが必要になります。そして、その誰かと信頼を築いていく過程そのものが、ゴールにたどり着くこと以上に、人生を豊かにしてくれるのだと、僕は思います。あなたの人生にも、河原さんのような人が、きっといるはずです。あなたの目になってくれる人、あなたを信じてくれる人、あなたと同じ方向を向いてくれる人。まだ出会っていないなら、これから出会えます。すでに隣にいるなら、その人をもっと大切にできます。

その人を、ちゃんと見てください。感謝を、言葉にしてください。そして、その人の後ろ側にいる人たちのことまで、想像してみてください。支えられていることに気づけたとき、挑戦はもっと強く、もっと温かいものになります。

僕は昔、「自分の力だけで何とかしなきゃ」と必死でした。誰かに頼ることは負けだと、どこかで思っていました。でも、視覚障害という大きな壁にぶつかって、初めて分かったんです。自分だけで抱え込むことより、信じて頼れる相手を見つけることのほうが、ずっと強い。河原さんと出会えたことは、僕にとって、競技の結果以上に大きな財産です。あなたにとっての「河原さん」も、きっと、あなたの人生を豊かにしてくれる存在のはずです。

僕はこれからも、河原さんをはじめ、僕を支えてくれる人たちと一緒に、繋がりの輪の中で挑み続けます。ピンチはチャンス。そのチャンスに変えるカギは、気合いじゃなくて工夫と、そして人との繋がりです。一緒に、人生を現役で生きていきましょう。今日も、最後まで読んでくれて、本当にありがとう。


🔥 挑戦の続きを、見届けてください

2026年9月13日、IRONMANジャパンみなみ北海道(225.8km)に挑みます。この挑戦は、支えてくれる人たちと一緒に作る物語です。日々の練習やレースの様子を発信しているので、そばで見届けてもらえたら嬉しいです。

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最後まで読んでくれて、ありがとうございます

中澤の挑戦を、これからも見届けてもらえたら嬉しいです。日々の練習やレース、盲導犬シュクレとの暮らしを発信しています。

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